novel2 2 「やっと…やっとなんですよ、砂名さん。彼は案外あっさり降りてくれましたけど、ここまで来るのにどれだけ大変だったことか、きっと砂名さんにはわかりません。でも構わない」 静かに差し出されたその右手。自分に向けているものだとわかっていても…わけのわからない恐怖心から握り返すことができない。 「砂名さん?早く行きましょう?」 俺の心情など全く察してくれないままやたらと急かしてくる。どこへ行くんですか泉さん。 「ほらぁ、早く砂名さん。時間がないんですから」 だんだん強くなっていく口調に若干の怯えも感じ、ゆっくりと手を伸ばす。泉さんの目を見ることができない。何もかもを直視できない。視界も聴覚も歪んでいく。 「砂名さん」 もうすぐその手をとる、といったところでふと違和感に気付いた。 泉さんの服の袖、泉さんのじゃない髪の毛が絡んでいた。細くてあまり傷んだようには見えない金色。 あまり長くないその髪は…… 「…ああ、これですか。ごめんなさいこんな汚いものつけたままで。でもちゃんと消したから、もう邪魔者は現れませんよ」 本当に汚らしいものを払うように腕を振る。ハラハラと落ちていくそれは、見覚えがありすぎた。 「……っ、泉さん…!あなたなにを…」 ありえない…ありえないじゃないか!現実にそんなこと!思いたくても、嫌な笑みで微笑み続ける泉さんを見ているとわからなくなる。 「砂名さん…?どうしてそんなに怖がるの?わたしは当然のことをしたまでなのに」 泉さんがおかしい。どうして、どうして。 「泉さん…どうしちゃったんですか……」 恐怖で体が勝手に震えだす。泣きたいのかなんなのかわからない。泉さんがわからない。 「わたしたちの邪魔をするものはいなくなって当然です……志度さんも、おじさんも」 父さん、も……? 「もう……もうやめてください…お願いだから、父さんにまで手を出さないで……っ」 「砂名さんのお願いなら仕方ありませんね…もう二度と手放したりしません、わたしの砂名さん」 そうしておれは微笑む泉さんの手を取って、自らを捨てる道を選んだ badend砂名……せめて反転泉にすればよかったかな タイトルは自作お題片想い編より backnext [戻る] |