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緩やかな熱






冬島はその名の通りで


『寒かった・・・』


年中灰色であろう空に向かって呟くと白い息に粉雪が交じって少しきれいに見える。この島での私的な買い物も終えたので一足先に船に帰って来たのだった。普段なら散歩でもするところだがこの島はちょっとどころか私には寒すぎる。逃げ帰って来たと言うのが1番合っているかもしれない。
そんなわけでがらんとした船内にオレンジの帽子を見つけたとき私は迷わず駆け寄って後ろから抱きついた。振り返ってこちらを見た目が驚きを映している。


「アオ」


『ただいま、エースはあったかくて便利だね』


「何だそれ」


私はちょっと笑って、それにびっくりするなんてらしくないよと彼に話しかけるとちょっと考えごとしてただけだと言って私の頭をくしゃりとかき撫でてくる。
そしてしばらくこっちを見据えたあとに何故か1人で頷いて私に言った。


「アオ、島に散歩行こうぜ」


『えー、外すごく寒いんだよ』


「いいじゃねえか別に」


回していた両腕が離れる前に捕まってずるずると引きずられた結果、また外に出てきてしまった。
吸いこんだ空気がつんつんして鼻に痛い。
たまには部屋で一緒にのんびりしようとして近づいたのになんでまた外に逆戻りなんだろうとぶすくれてみるが、原因である隣の男はむしろ機嫌良さそうにはおったコートに首を埋めながら身じろぎをした。
しかもよりによってエースが向かう森に入ると必ず長い散歩になってしまう。それはどの島でも同じことだった。


『やっぱり帰ろう、ほら』


こんなに赤くなっちゃったよ、という意味で手のひらを見せつけたのに何を勘違いしたのかエースは突き出していた手を握ると、自分が着ているコートのポケットに突っ込んだ。


「俺が温めといてやる」


『何それ!』


「俺の体は便利なんだろ?遠慮はいらねえから思う存分利用しろ」


特徴のある笑い方をして彼はまた歩き出すので、しょうがないなあと呟いて軽く引っ張られながらもついて歩く。
冷えていた指先が触れている箇所からゆっくりと温まるのを感じる。
木々の葉の深緑色と真っ白い雪が混ざり合った森の中で何となく見上げたエースはさっきまでの笑顔ではなく、ちょっと真剣な表情になっていたうえにちょっと頬が赤かった。
照れているのか寒さによるものなのか私には判別できないけど無性に笑いがこみ上げてくる。


「何が面白れえんだよ」


『ううん、別に』


エースは少しむくれたあとお前の手も温かいのな、と呟いて笑った。
私とエースはしんしんと雪の積もる森を歩き続ける。



緩やかな熱を注ぎ合いながら












「おい!今日は手つなぎまでいったぞマルコ!!」

「普段あんなにじゃれあっといてまだそこかい」


081111
090317加筆修正

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