駆け引かれる 目を開けた部屋はまだ薄暗かったし、カーテンに隙間をつくって覗いてもいつもの水平線には朝日の光がぼんやりとしか映っていない。 明朝ってやつだなあと1人で頷いた。 そして今日自分のやるべき仕事は無いはず。 コップについだ水を飲むと少し覚めた頭が思い出したので再びベッドに潜り込もうとした直後、乾いたノックが部屋中に転がった。 思わずひっと息を詰まらせドアを振り返る。 こんな時間に起きてるのは見張りぐらいじゃないんだろうかと思いつつ恐る恐るノブを回すと扉の向こうにいたのは我らが2番隊隊長エース。 『・・・隊長』 「よお」 見上げると顔は真っ赤だし若干目も焦点が合ってない気がする。 ああ、嫌な予感だ。 『お酒、呑んでたんですか』 「ん 親父と、マルコと」 『・・・呑みすぎですよ』 「ん」 的中だ、的中してしまった。 普段散々絡み酒に付き合わされているせいか一瞬胃が縮こまったが、究極に短縮された返事しか返さない彼はいつもの様子と違うので少しだけほっとする。 きっと酔いにおける第2段階にでも突入したのだ(それともただの泥酔だろうか) そんなことを考えている間に彼はふらりと室内に覚束ないままの足を踏み入れ、先ほどのコップに残っていた水をいきなりぐっと飲み干し大きく息を吐いた、かと思うともそもそと私のベッドに潜り込んでしまった。 『(新手のジャック犯だ)』 それか嫌がらせだ。 『隊長、むしろ私が寝たいんですよ』 「んー」 『ほらどいて下さい』 ゆさゆさと毛布の小山を揺さぶると相変わらず力のない目をこちらに向けてくる。 「・・・お前も寝たいの?」 『だから言ってるんです』 するとほれ、と被っていた毛布をあけてなんと私に向かっておいでおいでをしてきた。 『は?』 ちょっとだけ待ってほしい。 あれ?一緒?一緒なの? 「寝るんじゃねえの?」 やっと思考を取り戻した私に屈託の無い笑顔で訊いてくるけど、逆らったら後が恐そうなのは何でだろう。 さっきまで本当に酔ってたのか分からないくらい故意的な表情してるんですけど。 『・・・おじゃまします』 開けられた隙間にできるだけそっと潜り込むとうんうんと満足げに頷かれる。 その顔を見て他人(特にこの人)のペースに巻き込まれやすい己の性分をひっそりと呪う私がいた。 ここは私のベッドじゃなかったのか。 しかも横になって落ち着いたと思えば体が密着していたことに気づき、距離を置こうとしたらいつの間にか腕を回されていて動けないことにも気づく。 『隊長、』 向かい合った状態はあまりにも私の心臓に悪いのに、本人は既に夢の世界へと旅立ってしまったらしく寝息をたてていた。 どうしようもないこの展開にため息が滑り出る。 仕方なしに私はそのまま真正面の寝顔を眺めることにした。 そのうち別のことでも考えるだろうし、または私も寝るだけだ。 規則的に呼吸を続ける彼の輪郭は真っ黒なくせっ毛に縁取られている。 こんなに近くで見るとまつげが意外と長いことにも気づき、思わず私はその頬に手のひらをあてていた。 自分で自分に少し戸惑ったが相手は寝ているのでどうでもよくなってしまう。 『(どうせ寝てるんだもんね)』 まったく思わせぶりなことしやがってこの半裸と内心毒づいたけれど、しばらく考えた結果目の前の彼の全てが私には愛おしく感じられていて。 別のことなんて考えられるはずがなくましては眠れるはずもなく、ただもどかしくて辛いだけだった。 『こっちの気も知らないくせに』 ぽつりと呟いて、彼の胸に顔を埋めてみると自分の顔が余計赤くなったのが分かって、ふっと彼が笑った気がした。 駆け引かれる朝 なあ、おれ起きてるよ? -------------- このサイトにはじめて載っけた作品です! 結局は両思いなかんじ 甘いのか何なのかよく分からないですね(^ω^`) すいません 081025 090317加筆修正 次へ [戻る] |