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ただ、それだけで(三蔵)


折角貴方と二人部屋になれたのに、三蔵の視線は新聞に奪われて。八戒に美味しい珈琲の淹れ方を教わって差し出しても、何も言わずに受け取るだけ

たまにはその瞳に私を映して欲しいのに。貴方はただ、活字を追ってばかり



(ねぇ、此方向いて。)


(私を見て。)


(甘い台詞を囁いて。)



どんなに願っても叶わない。この空気が息苦しい。もういっそのこと、悟浄と部屋を変えてもらおうか。たまには悟空と街に繰り出すのもいい

珈琲の入ったカップをテーブルに置く三蔵を一瞥し、軽く息を吐いて椅子から立ち上がる。隣の部屋にいる三人の元へ行こうとドアノブを握り締めたら、この部屋に入って初めて聴く声に呼び止められた





「何処へ行く。」
「三蔵の邪魔にならないように、隣の部屋へ行ってくる。」
「…」
「─じゃあ、用があったら声掛けて、ね。」





ガチャとドアノブを回して、扉を半分ほど開いたとき、不意に感じた気配。後ろを振り向けば、新聞をテーブルに放り、眼鏡を外した三蔵がいた





「どうしたの?」
「…煙草が切れた。買いに行くぞ。」
「えっ…。」





急なことに戸惑いながら、ふと眼に入った煙草ケース。そこからはフィルターが数本、頭を出していて。三蔵の不器用な優しさを感じた私は、



「何してる。行くぞ、恵士。」



ただ、貴方に名前を呼ばれるだけで幸せを感じてしまう。単純だけど、今はそれだけで、いい


2008.04.29



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