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マドレーヌの香り(A)


「あぁ、***。ちょうど良かった」
「ふぇ?」

ふいにアニューに声を掛けられて、僕は疑問符を浮かべながら彼女の側に寄って行く。甘いいい匂いがして、僕はすぐにそれがマドレーヌであることを悟った。

「マドレーヌ!」
「正解」

くすくすと笑って、アニューはバスケットに掛かっていた布を取り払って見せる。中には狐色に焼き上がった貝殻状の焼き菓子が詰まっていて、わぁと僕は声を上げた。

「リヴァイヴと中庭でお茶にしようと思ってたの。***もどう?」
「食べる!!…あ、」

声を上げてから、しまったと思い至る。この後はブリングと開発中のMSのなんとかテストに行かなきゃいけないんだった。でも、アニューの(多分焼きたての!)マドレーヌ…。あー、うー、と唸り始めた僕にアニューは首を傾げる。それから小さく笑うと、バスケットに掛かっていた布にいくつかマドレーヌを包んで僕に手渡してくれた。

「はい。今日はデヴァインと?」
「ううん、ブリング。デヴァインはリジェネと一緒に連邦のなんとかって人に会いに行った」
「そう」

貰ったマドレーヌをしっかり両手で抱えて、アニューにありがとうと礼を言う。

「アニュー、今度はチョコケーキが食べたい!あの、なんかすっごい重いヤツ!」
「ガトーショコラのこと?作ったこと無いけど…今度試してみるね」
「約束だよ?」

僕のおやつの半分くらいはアニューの手作りだった。既製品のおやつも美味しいけど…やっぱりアニューの手作りが一番だと思う。料理なんて、人間臭いとリヴァイヴはいい顔をしなかったけど彼もアニューのお菓子は好きだった。
じっとアニューを見れば、困ったように笑って約束ね、と頷いてくれた。

「アニュー」

ふいにリボンズの声がして、アニューを呼び止める。2人はなんか難しい話しててイマイチ分かんないけど、1つだけ僕でも分かったのはアニューがどこか遠くへ行くことらしかった。

「アニュー、どっかいっちゃうの?」
「え?…えぇ、そうね…そう言うことに、なるかな」
「…」

しばらく黙り込んで、僕は手の中にあるマドレーヌをじっと見つめる。

「***?」
「…じゃ、ケーキは戻って来てからでいいや」

アニューに笑みを向けながら言えば、アニューも笑みを浮かべて分かった、と頷いた。

甘い香りを連れて廊下を通り抜け、ブリングと合流する。一緒にアニューの焼いたマドレーヌを囓りながら、僕は何とはなしにブリングの指先を掴んだ。

「…ブリングは、どこにも行かないでね」




(それは、予感。)


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あきゅろす。
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