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俯く君を見ていた(グラハム)


初めて、彼に会いたくないと思った。
常ならば離れたいなどと思うことは皆無なのに、私の寝台の上で薄い笑みを浮かべながらようと片手を上げたティエリアに私は思わず眉を寄せた。合鍵は渡してある。だから彼がここにいることに疑問は無い。ただタイミングが悪かった、それだけの話だ。

「…君の顔を見るのも久しぶりだ」

半年と少し、だろうか。彼に触れようとして…ふと自分の手を見た。そこに赤い幻覚を見た気がして、結局は彼に触れること無く手を引っ込める。

「従軍お疲れ様。随分引っ掻き回してくれちゃって」

冗談半分にじとりと私を見る彼の瞳は国連に属する人間らしいアメリカ非難の目だった。私は軽く肩を竦めてそれを交わし、クロゼットから着替えとタオルを取り出す。

「すまないティエリア、今日は…」
「分かってる。俺もあんま時間ないしすぐ帰るよ」

キシ、と軽くベッドの軋む音がして彼が動き始めたのを背後に悟る。それにほっと息をつきながら、取り繕うように言葉を続けた。

「すまない、今度埋め合わせにディナーでも…ッ!」

一瞬、気を抜いていたせいで彼がいつの間にか私のすぐ後ろにまで近付いて来ているのに気付けなかった。私を後ろから抱き締めた彼は、あろうことか私の手を握っていた。反射的にその手を振り払ってしまう。彼がかたくなに触れるのを拒否していた手に触れた驚愕もあったし私の汚れた手に触れさせてしまったと言う自己嫌悪もあったが、何よりも…彼の手は酷く温かかった。まるで、溢れる鮮血のように。

「俺に触れ、グラハム」
「すまない、今は…」
「今、触れ」

彼はその赤い瞳でまっすぐ私を見つめて来る。おずおず、という擬音がぴったりの動作で彼の頬に指先を触れさせた。頬を擦り寄せられて、接地面が多くなる。まるで万力で徐々に締め付けられるような苦痛を感じた。ずるりと彼の白い頬に伸びる赤が見える。

「…グラハム、お前はどうして戦うの」

静かに問われた言葉の答えは待たず、彼は私の頬をその命の温もりを宿した両手で緩く包み、口付ける。

「理由なんて言い訳で構わない。…でも言い訳がなきゃ辛い」

するりと私の頬を撫で、彼は小さく笑う。

「俺はお前が好きだよ、グラハム。お前になら、汚されても構わないから…」

だから触れろと小さく呟いた彼を、衝動のまま腕に抱き締める。彼は全て分かっていてここに来たのかと今更理解した。触れる命の温度に、初めての戦場の疲れがどっと押し寄せて来る。

「…すまない…」

小さく呟いた謝罪の言葉は受け入れられず、返事の代わりに甘いキスが額に落とされた。



(戦う理由を悩めばいい。例えそれが苦痛をもたらすとしても、意味も無く考えもせず引き金を引くような機械になって欲しくは無い)
(080526)

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あきゅろす。
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