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いきもの(ミュウツー/女主)


突如として人が落ちて来た。
地下洞窟の中央、わき出る清涼な泉に高い水柱が出来る。何事かと警戒心を露にしながら泉の中央に目を向けると、そこには1匹のケーシィと1人の女が浮かんでいた。ケーシィの方は怪我をしているらしく、遠目に見ても女はそれを助けようとしているようだが…ケーシィはそれを嫌がっているようだ。

「…。」

つい、と軽く指を上げる動作をする。念力によって持ち上がったケーシィを陸地に移すと、水に浮かんだ女は驚いたようにこちらを見た。

「ありがとう、助かったわ」
「、」

ポケモンに真顔で礼を言った女は軽い動作で湖面を滑り、岸に上がる。

「怪我の治療をしたかったんだけど全然懐いてくれなくて…テレポートで飛ばされたみたい。ここどこかしら?」
「ここはピュアズロック内のクリア湖だ。女、お前は何者だ?」
「………」

丁寧に答えてやったというのに、女は服の端を絞りながら動きを止めてしまう。僅かに眉間に皺を寄せて怪訝を示せば、ハッとしたように女が服から手を離した。

「ごめんなさい、今までポケモンに喋りかけて返事を貰ったことがなかったから驚いたの…そう、驚きだわ。彼らは私たちの言葉を理解しているけれど同じ言語は用いて無いもの…声帯が発達してるのかしら、それともテレパシー?」

よく喋る女だ。どうやら嘘を言っている様子も無く、ロケット団関係の人間ではないらしい。

「あぁ、そうだわ。私はグレンタウンの****。貴方は?」
「…ミュウツー」
「ミュウツー?聞いたことのない名前ね…新種かしら?残念ね、私がトレーナーだったら大喜びで図鑑に加えるところなんだけど…」
「私は人の手によって生み出されたポケモンだ」
「…ポリゴンのようなもの?」

確かにポリゴンも同じ人の手によって生み出されたポケモンだが、あちらは電子工学、私は遺伝子工学の結晶として生み出された。それを手短に説明してやれば、女はしばらく眉間に深い皺をよせてブツブツと何事かを呟き、懸命に言葉を噛み砕いているようだった。

「…つまり…生まれ方がちょっと特殊なポケモンね!」
「…」

女は簡単に片づけたが、それは一概にイエスとは言えない答えだった。私が何かを反論する前に女は腰からモンスターボールを取り出す。

「ボールからポケモンを出してもいいかしら?」
「…好きにするといい」

一瞬バトルを挑まれるのかと身構えたが、そう言うわけではないらしい。女の持っているボールは4つ、中からはヒノアラシ、ミニリュウ、ラプラス、モココがそれぞれ跳ね出て来た。

「皆可愛くて珍しいポケモンでしょう?」
「、」

ふいにそう言った女を見れば、どこか憂いを帯びた眼でのびやかな自然に混じっていく自分のポケモンを見ていた。

「怪我をして動けないところを保護したの。自然についた傷の子もいたけど…半分以上はバトルでついた傷だったわ。可愛いから、珍しいから、って捕まえようとして、結局は捕まらずに怪我だらけで逃げてきて…皆、そんな子たちよ」
「…だから助けたのか?」
「ええ。いけない?」

私の言葉に込められた疑問もくみ取って、女は微笑みながら私を見た。女に懐いていないケーシィは草むらに隠れてじっとしている。さすがにもう一度テレポートする体力は残っていないらしい。

「自然の中で息絶えるのなら、人間が手出しすべきものではないだろう。可哀想だからと手助けするのは人間の高慢ではないのか」
「…うーん…」

女はじっと私を見ながらあれやこれやと考えているようだった。それから泉に浮かんでいるラプラスに視線を向け、ぽつりと言葉を漏らす。

「私、小さい頃にあのラプラスに助けられたの」
「、」
「船から投げ出されて、海の荒波に呑まれちゃってね…その時に助けてくれたのがあの子だった。ポケモンに助けられて、私とポケモンに生物としての違いなんてないんだなぁ、って思ったわ」

だから助けるの、と女はふと柔らかい笑みを浮かべる。

「同じ生物なんだから、目の前で困っていたら手を差し伸べるでしょう?人間はポケモンよりも優れてる、って考える方が高慢だと思うわ」
「…」

女としてはそれで話にケリがついたんだろう。懐いていないケーシィをどう治療するかでぶつぶつと一人思案し始める。

(不思議な人間だ…)

本来ならば絶対にあるはずの"人間"と"ポケモン"の境界線が、あの女の傍では酷く曖昧なものになっている。ふと私を見つめているラプラスを見れば、彼女は違うの、とでも言うように穏やかに一声鳴いて見せた。





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