[携帯モード] [URL送信]
*籠鳥の羽を毟る(ヨハン)


「気分が悪そうだな」
「お前の顔見るだけで反吐が出るっての…」

温厚なツラしたそいつは相変わらずの上から目線で俺を見下ろした。否が応でも緊張してしまい、無駄だと分かりつつも距離を取ろうと後退りする。そんな俺の努力をものの3歩で無駄にして、そいつは俺の前に腰を落とした。顔だけ見りゃかなり美形だが、青みを帯びた灰色の瞳は恐ろしいほど冷たい。思わず視線を逸した俺を小さく嘲笑って、そいつは俺の頭に手を伸ばし何度か髪を撫ぜた。

「今日はMSWADの基地に武力介入してきた」
「…?!」

さり気なく告げられた言葉に、目を見開き逸らしていた視線をそいつに戻す。

「何…で…」
「…あぁ、そう言えば君もユニオンの兵だったか」
「白痴を装うな!」

身を乗り出したせいでギシッ、と後ろ手に拘束されている腕が軋んだ。真正面からそいつを睨み付ければ薄い微笑みでもって返されて、宥めるように髪を撫でていた掌が頬に降りて来た。

「何で基地が武力介入の対象になる?!あれは軍隊だ!戦争の幇助でもなければ紛争している場所でもないだろう!」
「私たちは先のソレスタルビーイングとは違う。だが敢えて言うのなら、基地の襲撃はこちらの一身上の都合だよ」
「な…」

酷く楽しげに目を細める男に、二の句も継げなくなる。

「そうだ…アインのカメラデータがあるから見せてあげよう」
「っ…!」

ギリ、と奥歯を噛み締め立ち上がった男を視線で追う。わざわざこの男がそんなものを見せる時は、大抵何か最悪なことが映っている時だけだ。それを見て傷付く俺をこいつは楽しんでいる。
部屋の隅の棚から映像端末を取り出し、俺の横に腰を下ろしたそいつから逃れようと身を捩る。逃げる俺の腰に腕を回して固定すると、空いた片手で端末の電源を入れた。

「やめろ…見たくない!」
「見るんだ」
「嫌だ!」

顔を逸らした俺にため息を付き、そいつは俺を後ろから抱き込むと顎を掴んで無理矢理前を向かせた。

「妹の機体は私たちの機体に比べてGN粒子が豊富でね。こうして接続すれば、1分近く撃ちっ放しにできる」
「ッ…!」

モニタに映った見慣れた景色が酷く懐しく思えた。いつもフラッグの中から見ていた光景なのに、もう…二度とこの目で見ることは出来ないんだろう。ペラペラと機体の機密を話す時点で、こいつが俺を解放するつもりなんてないことが分かる。
赤い閃光が、ドッグを順々に破壊していく。その閃光の先にあるのは…

「やめろ…、見たくないっ!!」

司令塔と長官室、そして…

「やめろォォッ!!」

教授の、私室。
見ていられなくて目をキツく閉じる。視界は黒く染まっても耳は破壊の轟音を拾ってしまう。

「なん…でっ…」

涙なんか見せたくないのに、ポロポロと零れ落ちるそれは止まりそうも無い。
エイフマン教授は大学の恩師だった。オーバーフラッグスにも教授の推薦で入ったし、教授がいたからこそ異動にも納得して従った。
俺を抱き竦めるそいつを振り返り、睨み付ける。予想通りそいつは楽しげに笑っていた。

「知り合いでもいたかい?この後弟がフラッグを落として…」
「…してやる…」

久しぶりに口にする言葉に、男はぴたりとお喋りな口を閉じた。

「殺してやる…!」

ここに連れて来られて、最初に犯された時にも紡いだ言葉だ。時間が経つにつれて出来もしない強がりを吐くこともしなくなった。けれど、今だけは沸騰しそうなほど胸の内側が煮えたぎっている。憎悪を込めて男を睨めば、そいつはしばらく口を噤んだ後、歪んだ笑みを浮かべて俺を抱く腕に力を込めた。

「…その声が、堪らない」
「ッ…!」

ぞわりと、寒気がした。熱の籠った声音と我慢出来ないとでも言いたげに締め付けてくる腕に息を詰める。

「もっと私を憎め…!嗚呼、今日のミッションは最高だった。か弱い命を握り潰して、一体何人が死んだと思う?それに加えて君の生きた顔を久しぶりに見れた…あぁ、****」
「ッ…の、キチガイが…!」

背中に当たる硬くなった象徴に酷く苦々しい気分になる。俺の苦悩する様に、この男は欲情している。熱っぽい吐息はねっとりと俺に纏わりつき、奇人は小さく笑いながら俺の耳元で愛を囁いた。

「嗚呼、****…今すぐ君を殺してしまいたい…!」





(気違いヨハン推奨)


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!