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One day(ユニオン)


「一息入れたらどうじゃ?」
「、じいちゃん…」

紙コップに入ったコーヒーと一緒に掛けられた言葉に顔を上げれば、呆れたように細められるじいちゃんの薄いブルーの瞳があった。まだ熱いカップを両手で包みながら、首を回して小さく欠伸をする。

「演算が上手く行かなくて」
「若い内は体力任せで行くからいかん。早く嫁を見つけてストッパーになって貰え」

あの茶髪の男はどうした、と問われ曖昧な笑いを返す。男な時点で嫁はないでしょうと思いつつも、彼も忙しいから、と苦いコーヒーを口に含みつつ返した。

「じいちゃんもやっぱり曾孫の顔が見たい?」
「年を取ると欲が出てくる。以前は孫が見れればいいと思っておったが、今はお前の子まで見たいと欲張っておるよ」
「アハハ、僕とニールの子ねぇ…!」

残念ながら僕たち二人とも男だからなぁ。眼鏡を外して目許を指で押しながら、どうしたら僕とニールの遺伝子を継いだ子ができるか考えた。母体と卵子を提供してもらって、遺伝子を組み替えるかはたまた…。

「馬鹿なことを考えるでない」
「だって見たいんだろ、曾孫。じいちゃんの為なら僕頑張るよ〜?」
「わしはお前の元気な姿を見るだけで十分じゃ」
「…ん。」

くしゃりと頭を撫でたじいちゃんに笑みを向けて頷く。僕はまさに世に言う"おじいちゃんっ子"だった。親と仲が悪いわけでもないが、色々あって過干渉になっている親よりは口煩く言わないじいちゃんといるのが楽でいい。何よりもじいちゃんは頭が良いから話していて楽しかった。

「傭兵屋の方はどうなんじゃ?」
「ガンダム様様だよねー、超順調」
「ディオーネの装備でもあの機体に立ち向かうのは厳しかろう」
「そこは技術でカバーするよ」

今は修理、強化中の愛機を思うと肝が潰れる思いだったが致し方ない。ガンダムとやり合って大破しなかっただけマシだと自分に言い聞かせながら、心配そうに眉を寄せるじいちゃんに笑みを向けた。

「大丈夫だよ。じいちゃんだって僕の実力は知ってるだろ?」
「あんな桁違いのMSとやり合うんじゃ。心配せん方がどうかしておる」

まぁ確かにそうなんだけど。

「…まぁ、僕は何とか切り抜ける自信あるからいいとしてさ。心配なのはじいちゃんだよ」
「うん?」
「うちの工房もガンダムに武力介入食らっただろ?いつこっちが狙われてもおかしくねーじゃん」

新しい、赤い粒子を撒き散らすガンダムは明らかに今までのガンダムとは異なった行動を起こしていた。標的になったうちの工房はほぼ壊滅状態で、工房からも多数の死者が出た。忌々しいことこの上ない、あのガンダム。

「…そうじゃな。その時は****、わしの後は頼んだぞ」
「不吉なこと言うなよ…」
「科学者として信頼して言っておる」

僅かに笑って見せたじいちゃんに苦い笑みを向けて、軽く肩を竦める。

「軍の技術顧問なんか辞めて大学に戻りなよ、危ないし」
「乗りかかった舟じゃ。今さら途中で降りれんよ」

じいちゃんは変なとこで頑固だからなぁ、とまさにその変なとこに拘っている様子のじいちゃんに眉を寄せる。僕にじいちゃんの意志を変えられるはずもなく、はいはいと返して大仰に呆れる動作をするだけだった。

「たまには息子たちのところにも顔を見せてやれ。あれらも心配しておる」
「…また、今度ね」

曖昧な返事を返して、数字と文字の羅列が延々と続くモニタに目を戻す。親父やお袋が僕を心配しているのは分かっているつもりだけど、24にもなってあの過干渉は正直鬱陶しかった。

「やぁ!はかどっているかい?」
「ビリー!」

ばたんっ、と乱暴にラボのドアを開けたビリーは両手にビニールを提げていて。

「グラハムが差し入れにドーナツをくれたよ」

お疲れ様ですプロフェッサー、とか言って長身のビリーの後ろから顔を出した金髪に、僕は思わず眉を寄せて声を出す。

「ウゲェー、何でお前が来んの。ドーナツだけ置いてお前は帰れコックピットの中でマスでもかいてろよ」
「君は相変わらず下品だな」

呆れたように腰に手を当てて言ったグラハム・エーカーにべーっと舌を出して、ビリーが広げたドーナツの箱からたっぷりチョコの掛かったひとつを手に取る。

「あっ、そうだ。グラハム、お前ちゃんともしもの時はじいちゃん守れよ?」
「分かっている。プロフェッサーは我々オーバーフラッグには必要不可欠な方だ」
「つっても肝心な時に軍人って役立たねぇからなぁ…」

ぶー、と唇を尖らせながら悶々と考える。MSWADの基地だから大丈夫、何て言ってられない。ガンダムが軍事基地に充分介入し得る戦力を持っているのは過去のデータで実証済みだった。

「やっぱ僕のディオーネを手っ取り早く直して僕があのガンダム墜とそう」
「逸るな、馬鹿者が」
「この間負けたのは機体が万全じゃなかったせい!ディオーネがベストコンディションだったら負けないよ」

言い訳でも何でも無く本気で僕はそう言っているのに、じいちゃんは困ったように眉を寄せるだけだった。

『****、ディオーネノOSニエラー発生!』
「えっマジで?!」

ぴょんぴょんとはねながらやってきたエディに目を見開いて、食べ掛けだったドーナツを口に詰め込むとコーヒーを喉に流し込んで立ち上がった。

「格納庫は寒い。良かったら使いたまえ」

グラハムが差し出した軍支給のジャケットに僕は思わず眉を寄せる。けれど、先程まで外にいた白人である彼の赤くなった耳や鼻を見て、僕は渋々それを受け取り羽織った。

「じいちゃん、そっちのプログラム保存しといて!」
「あぁ」

エディを脇に抱えて格納庫に向かいながら、エラってしまったOSの何がいけなかったのだろうかと考える。

「何だろうな、エディ」
『サァ、ナンダロウー?』

うーん、と二人で唸りながら、僕は温かいラボに別れを告げ格納庫に足を踏み入れた。





(時軸捏造はお手の物。 080203)



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