◆SS
□2月22日
「にゃーん」
「……ごめん、俺犬派だから」
友人宅に遊びに行ったら、部屋を開けると黒い猫耳を頭につけて、律儀に手のポーズもつけて、ついでに頭の角度も忘れなかった友人のお出迎えを受けた。
だが悪いな、俺は将来犬を飼うと夢見ている程の犬派なんだ。
謝罪と共に俺は扉を閉めようとする。
「おいこら!」
「猫は嫌いじゃない。が、俺は犬の従順な態度が好きなんだ」
「猫だって、懐くだろ!」
「基本スペックはツンデレだろ!従順とは違う!というかお前は猫なんだろうが!なら人の言葉喋るな」
「っ!」
扉を閉めようとする俺とそれを阻止する友人との押し問答だったが、先に負けたのは黙った友人。
それを見て確認した所で、俺は仕方なく部屋の中へと入った。
「そもそも、何が嬉しくて良い年した大人が猫耳着けてるんだ。恥は捨てたのか?」
「……」
「前もお前は確か変なことしたよな?バレンタインか?クリスマスか?幼児以下の発想で毎回よく出来るな」
「……」
「無視か?何か喋ろよ」
「……にゃ、にゃん」
正座をして俺の話を聞く友人に俺は何の疑問も持たずに立ったまま話す。
しかし、喋ろと言って友人が紡いだ言葉は『にゃん』という何ともふざけた言葉。
「……お前は人間だろ。本当に猫になりたいのか」
「っ!」
冷たい視線を送りながら言うと、返って来たのは若干涙目になりかけの瞳での訴え。
お前が悪いんだろと言いたげなその瞳に、先ほどの会話を蘇らせた。
「あー、そう言えば人の言葉喋るなとか言ったな、それでか。面倒だから普通にしろ」
「はー、良かった」
「あ、でも面白いから語尾に、にゃんは付けとけ」
「っ、お前な!何面白がってんだよ!」
「義隆、語尾」
「っ」
立ち上がって反抗を見せた友人に構わず俺は口調を変えずに言う。
「面白いに決まってるだろ?スーツに着られなくなった良い大人が安物の猫耳なんか付けてるんだから」
「それはっ」
「ほら、語尾」
「…………にゃ、にゃん」
顔を真っ赤にしながら手振りなしでも「にゃん」というその姿は何とも滑稽で可愛くて、加虐心を煽られる。
「尻尾は?ねぇの?」
「ある、けど……」
「けど?」
「今は、ダメだ………にゃん」
「ふっ、何で?」
自ら友人と視線を揃えて、腰に手を回して撫でながら尋ねれば更に頬を紅潮させる。
「だって、あれは……」
「お前が鳴く為の玩具?」
「っ!!」
予想通りの反応に、どうやらただの猫の尻尾は用意しなかったらしい。
流石、友人。
「て事は、ただ馬鹿やりたいだけに猫耳付けてる訳じゃねぇのか」
「あっ、」
ズボンの中に手を侵入させて尻を撫でたら、服の裾を掴んで来た。
熱を帯びた瞳をさせて見上げてくる。
「馬鹿か、期待してんな」
そのまま正座していた友人の手を取り、強引にベッドの上を投げつけた。
今度は俺が上から見下ろせば、どうも普段スーツを着て働いてる奴が猫耳を着けてるその姿はどうにも愉快だった。
「わざわざ家での呑みなんて、お前が考える事なんてたかが知れてるけどな。何せそういう企みに関しては幼児以下だからな」
「……外での呑みは会社の接待で充分だ、にゃん」
「お前は呑まされる方だから余計な」
「んっ」
まるで本当の猫を扱うように喉を触ってやれば、嬉しそうに目を細めてそれを享受する友人。
ずっとこうしていたら、いつかゴロゴロと喉を鳴らすのではないか。
「なぁ、今発情してんの?」
「して、ねぇ……にゃん」
「ミルクでも飲ましてやろうか?」
「っ!!エロジジイ!!」
「引っ掻くなよ」
笑いながら言ったら、友人は更に顔を赤くして、手を振り上げる。
俺はそれを簡単に受け止める。
「ジジイと言っても同じ年だろ、俺ら」
「頭の中が、お前の方が老けてるんだよ」
「どこがだよ。つうか、ただのジョークだろ?」
何もかも真に受けて面白い奴だ。
だから会社でもからかわれる立ち位置に未だにいるんだよ。
「というか、お前は何を連想したんだよ、万年発情期の猫ちゃん?」
「っ、それは……」
掴んでいた手を自分の首の後ろに持って行き、そのまま顔を近付けて尋ねたら当然そっぽ向かれた。
しかし恥じらいで背けた為に耳まで真っ赤にしている事を発覚し、本当にこの友人は遊びがいがあると心の中で笑う。
「言ったろ?俺は素直で従順な犬の方が好きなんだよ」
友人の身に付けていた衣服を雑に脱がしながら言う。だがもちろん、猫耳は装着させたままだ。
「たまにはさ、扱いずらい猫と遊ぶのも悪くねぇけど……」
「んぁ……」
その首筋に唇を押し付けて舌を這わせれば、まずは微かな声が一つ、洩れた。
そのまま下に降りて行って、鎖骨から胸へと辿る。
「俺は発情してる猫の煩い程の可愛い声、聞きてぇんだけどな」
「っ、あ……」
胸の突起を軽くかじれば、回した手に力が込められる。
「爪立てんなよ」
「っ、でも……」
「まぁ、しっかり鳴くんなら許してやる」
「んあぁっ」
舌で唾液を含ませながら舐めれば、今度は手から力が抜けてシーツの上へと落ちる。
「玩具もあんだろ?猫なんだから、今日はしっかり俺に付き合えよ」
「っ………にゃぁ」
本当に猫かよ、と自分の下で潤んだ瞳をしている黒猫を見ながら微笑んだ。
Fin.
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