◆SS
□印
俺はお前に助けられたから。
だから、お前の言う事は何でも聞くよ。
俺も、お前を助けたいから。
いつだって、俺の中心はお前だから。
=====
「っ、あ……きりゅうっ」
深々と奥に桐生のものが突き付けられ、何度も何度も強く抉られる。
「…キツいな、篠」
「ぁ、きりゅう……俺もう」
「ん、分かった。イキな……」
「ひっ、あっ……きりゅ…」
「締め付けるな……」
桐生は篠原の締め付けに呻きながらも、激しい律動の手を止めずに篠原を攻め続ける。
「あっ、はっ、イッ……あ、あぁぁぁっ」
「っ」
「おく……きりゅうのが……熱い…」
奥に熱いものを注がれて、その熱さにも篠原は喘ぐ。
「……篠…イッた?」
「あっ、んっ……イッた……」
「感想は?」
「ん、気持ち、良い……好き…桐生、好き」
「……なら、俺のお願い聞いてくれる?」
「ふぁっ」
桐生のモノが篠原の中から抜かれて、名残惜しそうな声が出た。
それでも、桐生の“お願い”に篠原は桐生の腰に手を回して聞こうとする。
「お願いって、なに…?」
「俺さ、すっげぇ嫌いな奴がいんだよね」
「……うん」
「だからそいつの弱味握って、好き勝手したいなと思って」
「……うん」
「篠は、俺の事好きだよね?」
「大好きだよ」
嫌な予感がした。
いつものお願いの種類と同じ感じ。
「なら、そいつと寝て」
「……それは、桐生の為?」
「うん。仕事出来ないのに偉そうな奴って俺嫌いだから、弱味にする」
「……俺、そいつを落とせる自信無いよ?」
「できるよ。だって篠は、俺が育てたんだから。色仕掛けしてみな。あの馬鹿すぐに落ちるよ」
やっぱり、このパターン。
俺は、桐生の物なのに。
桐生は、桐生の為に俺を他の奴とヤラせるんだ……。
桐生に育てられて成長して桐生の為に存在する俺に、他の奴と寝ろなんて。
「……俺は、桐生の物だから」
「当たり前だろ」
「身体も心も、桐生の物だから」
「あぁ、分かってる。だから、少しだけだ」
「……わかった」
「ありがと」
「んっ」
軽いキスをされて、それだけで俺はくすぶっていた熱をまた再燃させる。
本当馬鹿だな。
でも、俺は桐生の為だから、良いんだ。
ーーーーー
「名前何て言うんだ、お前」
「……志野だよ。何で聞くんですか?」
「今から犯す奴の名前くらい把握しときてぇだろ。初めてだしな、俺。男とは」
桐生は篠原って俺の名前から上の部分だけを読んで篠って呼ぶ。
だから、桐生に呼ばれてる感覚を得たくてそう名乗った。
けれど、後悔した。
「っ、志野、志野……」
「っっ……やぁ……だ」
「は、どこがだよ。嫌とか言う割には、グチュグチュ言ってんぞ。男でもこんなに濡れんだな。面白ぇ。なぁ志野」
「んんっ、やぁ……」
名前を呼ばれる。
響きは同じなのに意味が違う。
発してる声が違う。
身体が動くたび漂ういつもと違う香り。
でも、自分から漂う香りは嗅ぎ慣れた香り。
それらが交錯して、混ざり合う。
『なぁ篠。俺が傍にいるって思わせてやる。やっぱ俺も、他の奴にミスミスと抱かせるのは面白くねぇからさ』
『何か、くれるの?』
『馬鹿、脱いだら意味無いだろ』
『じゃあ、何?』
「なんか、お前の匂い、らしくねぇな、志野」
「っ!……やめ、てぇ……」
「何が?良いんだろ?」
『俺が普段着けてる香水。お前に着けとく。俺の印』
桐生は傍にいないのに、自分の身体から漂う香水の香りのせいで桐生が隣にいるみたいで、包まれているみたいで。
でも犯される感覚は全然桐生とは違って。
「志野……出すぞ」
「あ、だめ……や、め……」
桐生の物なのに、自分を犯すのは桐生のモノじゃない。
でも自分を包む桐生の香り。
桐生に見られているみたいで。
この行為を咎められているみたいで。
名前を呼ばれるたび、呼ぶ声が違うと思うたび、何をしてるんだと視姦されているみたいで。
「ぁ……なか、だめっ……」
「もう遅ぇよ……出すぞ、志野」
耳元で囁かれた偽物の声と名。
鼻孔をくすぐる本物の声。
脳内で再生される本物の声。
その全てが交錯して、錯覚する。
あぁ、俺、桐生の物なのに。
桐生のモノ以外に犯されながら、桐生に見られてる。
「んあぁぁぁ」
「っ」
中に注がれた熱い体液。
その熱さに、錯覚に篠原は絶頂を迎えた。
ーーーーー
「桐生……俺、」
「お帰り、篠。上手く出来たか?」
「……言われた場所で、ちゃんとアイツと」
「うん、分かってる。写真撮れてたから」
「っ、桐生……ギュッてして」
「良いよ、ありがとね、俺の篠」
落ち着く声、落ち着く香り。
やっぱり俺は、桐生以外は無理だ。
心も身体も、桐生の物なんだ。
大好きな全てに包まれながら、俺はそのまま眠りに落ちた。
ーー
『志野……出すぞ』
『あ、だめ……や、め……』
『ぁ……なか、だめっ……』
『もう遅ぇよ……出すぞ、志野』
『んあぁぁぁ』
暗い部屋の中、パソコンの明かりだけが照らされる。
流れる音は、乱れている声。
「やっぱ篠は、俺以外の奴に抱かれながら俺を思い出してる時が一番悦い顔すんな」
隣で静かな寝息を立てているのは、今日好きな相手以外と寝て心身共に疲れた大切な恋人。
そっと髪を撫でて、額にキスをした。
「まぁ、アイツを貶めるのも本当だけど、本当の目的はこっちなんだよな」
ごめんね、と心の中だけで謝り、桐生は見ていた映像を停止して秘密のフォルダへと保存した。
Fin.
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