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◆SS
□蜜と毒(濱本くんと佐藤くん)

「ねぇ、暇?」

いつものように、何となく勉強している濱本の背中を見つめながら佐藤はベッドに腰掛けていた。
けれど珍しく一人で何かする訳でもなく、ただ座って眺めていた。
そこに、更に珍しい事に濱本に声をかけられ、佐藤は気を抜いていた体勢を整える。


「あ、うん。暇だけど……」
「なら、ヤりたい?」


椅子に座ったまま振り返った状態の濱本からの問いに、佐藤はやはりこれは悪い夢なのだと思った。
なぜなら、濱本がヤる事に関して佐藤の意見や希望を聞く事なんて滅多にない。
まして、ヤりたいかどうかなんて、ありえない。
だってその質問は、今濱本がしたくて、佐藤に許可を求めているのと同義だからだ。

これは、夢だ。けれど余りにも幸せ過ぎる夢だ。
だから、佐藤には現実と同じように拒否権なんて有りはしなかった。


「ヤりたい、濱本。俺を犯してくれるの?」
「うん、良いよ。遊んであげる」


ほら、やっぱり夢だ。
良いよと言ってくれた。構ってくれると言ってくれた。
こんな濱本、俺は知らない。
けど知らないなら、好きにしても良いのかもしれない。

濱本はゆっくりと立ち上がり、佐藤の肩を押した。
簡単に佐藤はベッドを背に深く沈む。


「何して遊んで欲しい?」


膝で立ち、佐藤を見下ろす姿はいつもと違う艶を感じる。
いつものような暴君で荒々しくて感情の無いような冷たさも好きだけれど、今みたいな妖しい空気も堪らない。


「酷くして欲しい。でも……」
「でも?」
「…………優しくして欲しい」


怒られるかもしれない。引かれるかもしれない。
けど、今なら許してくれる気がした。
何故だか知らないけど、知らない濱本だから、許してくれるような気がした。


「何それ」
「っ、ごめんなさい」


鼻で笑われて佐藤は反射的に身体を強張らせた。
殴られる?怒られる?
それならまだ良い。
何様だと捨てられたらどうしよう。
瞳を閉じて次に訪れるだろう衝撃に構えていた佐藤の耳に届いたのは、温かさ。


「お前それ矛盾してるよ」
「ぁ……」


息を呑んだ。
濱本が佐藤の髪を優しく撫でている。
普段の乱暴に掴むのとは異なる、髪質を楽しむような触り方。
幸せ過ぎて死ぬかもしれないと思った。


「何で泣いたの、お前」
「あ、だって……っ」
「泣くなよウザい。今日は泣かせたい訳じゃ無いんだよ」
「え?」
「ほら、犯して欲しいんでしょ?さっさと脱ぎなよ。それくらいは一人で出来るでしょ?」


聞き間違えかと思った。
けれどそれを確認するよりも、濱本の気分が変わらない内に言う事を聞いてこの幸せを味わおうと考えた。

佐藤はいつものように一人だけ衣服を全て脱ぎ、全裸になる。
その様子を濱本は何も言わず、ただジッと静かに見ていた。


「あ、あの……濱本?」
「で?何して遊んで欲しいんだっけ?もう一回言ってくれる?」
「ぜ、全部?」
「うん、全部。希望通りに遊んであげるよ」


ニコッと微笑む濱本は、魔性のようで引力がある。
けれど、吸い込まれない訳にはいかない。
もうとっくに濱本に掴まっているから。


「酷く、して……それで…………優しく、して下さい」
「そっか。なら、どう酷くして欲しい?」
「っ!」


脱いだ時に上体を起こした姿勢を再び戻され、片足を持ち上げられる。
簡単に触れてもらえるそれすら優しい事だと言ったら、この夢のような時間は終わるのだろうか。


「優しく奥を突いて欲しい?ゆっくりと、動いて欲しい?」
「い"ぁ!……ぁ、んん」


慣らしていないその奥に、指を挿れられる。
けれど、その動作がゆっくりのせいか、普段は更に荒いせいかそれほど痛みは感じなかった。

濱本の言うように、ナカに挿れられた指はゆっくりと奥を抉ってゆっくりと壁をなぞる。
違う、そうじゃない。
優しくはして欲しいけど、それで足りる訳がない。


「ねぇ佐藤、こんな指でゆっくりと動いて刺激して欲しい?優しくして欲しい?」
「ンン、違っ……やだ、ぁ」
「なら、どうして欲しい?」
「っ」


ニュルッと指が引き抜かれ、佐藤は首を横に振った。
これで満足するような身体ではない事を知っているくせに。
こうして言わされる事に興奮する事も知っているくせに。
それなのに、たかだか指一本で佐藤が犯して欲しいと望むかどうか確かめるなんて酷い人だ。

けれど、好きだ。
そんな濱本が。


「指は、嫌だ。濱本のが、良い。大きくて、太くて、奥まで突いてくれる、濱本のが、良い」
「……そう」


濱本はゆっくりとまだ勃っていないそれを取り出す。


「ぁ、早く、ちょうだい。濱本、濱本……」
「……遊んでやるとは言ったけど、がっつく奴は嫌いだよ、佐藤」
「っ……ごめんなさい。けど」
「うん、良いよ。特別に入れてあげる」


濱本のモノの先端がひくつかせているそこに宛がわれる。


「あ……」


幸せ過ぎて、今なら死ねる。
けれど死ぬならいっそこの先の本当に死にそうな快感を与えられてから、死にたい。


「どこ見てんの、お前。ちゃんと俺を見なよ」
「っ!」


濱本に手を取られて心臓のある位置に置かれた。
濱本の鼓動の速さが伝わって、自分の鼓動と連動しているように感じる。
お互いの鼓動が行き来して逆流して、今この血は誰に向かって流れているのか。

佐藤の顔に血が集まって真っ赤になる。
熱でも出したのかと思うくらいに熱くなってクラクラする。


「なにその顔。いつももっと酷い事してんのにそれくらいで恥ずかしくなってんの?」
「恥ずかしい……?」
「そう。今俺のがお前のナカに入ってて、今お前は俺の心臓に触れててどこでも俺の鼓動を感じてる」
「……うん」
「こういうのを俺達以外の奴等は繋がってるって言うんだよ」
「ぁ……え……?」


今日の濱本は、やっぱりおかしい。
そんな甘くて蕩けそうで全身の力を持っていかれるような言葉、今までに言った事ないのに。


「ほら、お前の望む通りしっかり酷くしてやるから……動くよ」
「んぁぁっ……あ、や……濱本、俺っ……いっ」


佐藤の感じる場所を探そうなんてしない動き。
けどそんな場所狙わなくても濱本のモノを感じてるだけで全身に快楽を得られる佐藤には充分だ。
他人の身体に対してとは思えない遠慮の無い動きも佐藤には甘い愉悦をもたらす。


「酷いのと優しいの、両方あげようか?」
「…………ん、ちょうだい……」


濱本から貰えるものなら何だって良い。
佐藤は無意識に目を閉じる。
ゆっくりと濱本が佐藤の首に両手を添えられた。
冷たいような暖かいような、手が冷たいのか自分の身体が暖かいのか分からない混ざった感覚があった。

その間はナカに入っているモノも動く事はなく熱さがじわじわと伝わって身体全体に溶け出しているような気がした。


「……お前は本当に馬鹿だね」
「あ"っ」


濱本の親指に力が入り佐藤の気管を圧迫させた。
衝撃で目を見開くと濱本と目が合う。


「大好きだよ」
「あ"、はっ、ーーーーっ」


息の出来ない苦しさと与えられた甘い告白。
甘い蜜と鋭い棘。
夢中にならない訳がない。


「ははっ、お前は本当に変態だな」
「っ!ぁ、、はっ」
「こんな状況で嬉しそうにすんなよ、変態。けど大好きだよそういう馬鹿なところ」


首をしめられながら告白されて、腰を揺すられてナカを突かれながら快感を与えられて。
なんという地獄なのだろう。


「あ、あっ……っ……」
「ほら、お前ならイケるだろ?」


更に指に力が込められて、本当に死ぬんじゃないかと思った。
けど、それでも幸せだと思った。

佐藤のぼやけた視界には楽しそうに笑う濱本がいて、その瞳の中に佐藤が映っている。
そして自分の体内には濱本のモノが埋められていて蹂躙されている。


「ぁ……ぁ"ぁ"」


身体が震えた。脳が揺らされた。
意識を失うかと思った。
その瞬間、耳許で聞こえたのは濱本の優しい声。


「…………ハッピーバースデー」


佐藤は首を絞められながらも、腹部はしっかりと白濁で汚して絶頂を迎えていた。

Fin.

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