◆Short Novels
2
「ここですんのかよ、てめぇ」
「……ダメ?」
不機嫌に言った桜野に真崎は情けなく微笑んで返事をする。
思ったより根性ある人間なのかもしれない。
桜野は今真崎によって棚の上に座らされ、背中には大きな窓ガラスがあった。
一階だから転落しても命に別状は無いだろうが、人目が気になった。
放課後で、部活動が皆無に等しい学校とはいえ、まだ残っている生徒はいるだろう。
「……抱かせてくれるんでしょ?」
「そうだけどさ……」
何も考えておらずその場だけのノリで言ったとは今更言う事は許されない真崎の雰囲気。
桜野は妥協案を考える。
無計画で何も考えてなかったとはいえ、端から見たら桜野が誘ったように思われる立場だ。
迂闊に拒絶は出来ない。
「……わかった」
桜野は諦めて頷き、自分の眼鏡に手をかけた。
「周りにバレないように眼鏡外す。お前の望む俺の姿じゃなくて悪ぃけど我慢しろよ。ここでって言ったのはてめぇなんだからな」
前髪を掻き上げて、桜野は言った。
地味で平凡な姿から一変、周りから美形だと賞されるような姿になる。
顔立ちとは似合わない鋭い目付きがまた危うさを醸し出していた。
平凡な姿をしていた桜野に興味を抱いていたのなら、真崎はそういう容姿を好むのだろう。
しかし、桜野としては見付かる恐れがあるこの状況ならいっそ素顔の方が良い。
これで向こうから拒絶されるなら、それはそれで構わない。
「おい、何か言えよ」
「……綺麗だね…桜野……」
瞬きして桜野を食い入るように見つめる真崎に桜野は大袈裟に肩をすくめた。
「あーそう。残念だったか?」
「ううん、思ってた通りだった……」
真崎は桜野の頬を撫でてうっとりと見つめる。
他人が自分の肌に触れる感覚に、一瞬身体を強張らせた。
「っ、気付いてたのか?」
「眼鏡かけてても、分かるよ……桜野は、綺麗だ」
「はっ、見た目だけな」
皆そうだった。
見た目だけに惹かれて興味を持つ。中身には興味は抱かない、必要としなかった。
その事に関して妬まれる事もあったが、異性以外の興味も引き付ける事も果たして羨望の的にされる事なのだろうか。
「桜野……ねぇ、ヤりたい……」
「手加減しろよ、てめぇ。俺は初めてなんだからな」
「……桜野が初めてなんて嘘でしょ?」
「初めてだと嘘をつくメリットあるか?」
「ない、よね……」
クシャッと笑う真崎の表情と会話から、僅かに嫌な予感がよぎった。
「待て、お前は経験あるのか?」
「……どっちの事?」
「全部だ」
「桜野の想像に任せるよ」
そう言い微笑んだ真崎の雰囲気はいつものような地味で平凡な姿とは異なっていた。
「腹立つ」
「え、なんで……」
「……気に入らなかったから帰るからな」
「うん、分かった。だから、早くヤらせてよ」
桜野は真崎のポケット自分の眼鏡を突っ込んで挑発的に笑う。
それに対して真崎も桜野の首筋に顔を埋めて舌を這わせた。
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