◆Short Novels 1 「ねぇ、俺だけ?」 「は?何が」 「桜野の素顔を知ってるの」 「良い気になんな」 同じ学年で同じクラス。 それしか共通点のない真崎を、桜野は思い切り睨んだ。 普段かけているダサい黒縁メガネも外して、前髪も汗かいた為にかき上げて素顔を晒している桜野の顔は綺麗だった。 そんな綺麗な顔での睨みにはやはり迫力がある。 「……ごめん」 その慣れない迫力に押されて、真崎は謝る。 その真崎を見て、謝るな、と思った。 この今の状況に巻き込んだのは桜野だ。 真崎が謝る必要は欠片もない。 それなのに、いつも真崎は謝る。 「なんで、俺を選んだの?」 「お前こそ、なんで了承したんだよ」 「だって……元々俺、桜野は綺麗だと思ってたから」 「……お前の目は腐ってんな」 幸せそうにうっとりと桜野の事を褒める真崎に、吐き捨てるように言った。 しかもダサい眼鏡をかけている姿の時の事を褒めるのだから、本当に真崎の視力を疑う。 「でも、そのおかげで俺は桜野を抱けるんだから……嬉しいよ」 本当に、この男は変わっている。 桜野にとって、元々真崎の印象なんてほぼ皆無だった。 ―――― 家系譲りの自分の綺麗な顔が嫌いだった。 男らしさなんて無い、美しく綺麗な顔立ち。 周りからは羨望と嫉妬の眼差しを向けられる。 どこにいても何をしても、桜野は注目を浴びた。 その影響からか、元々なのか、その見た目とは異なる性格の悪さを桜野は持ち合わせていた。 徐々にその悪さを磨きにかけ、自分の容姿を嫌いになり、桜野はいつからか自分の容姿を敢えてダサく見せるようになった。 綺麗な長女、可愛い次女からは自慢の息子がそんな姿をし始めた事に反対だった。 だから、高校生になって、全寮制の男子校へ入学した。 そこなら誰も桜野を知らない、注目を浴びなくて済む。 そこで出会ったのが、真崎だった。 「真崎だっけ、お前」 「……うん。君は、桜野だよね?」 「なあ真崎。お前、俺の事好きなの?」 眼鏡にだらしなく垂れた前髪。どう見ても冴えない地味な姿で、桜野は最近視線を感じる相手にそう聞いた。 なぜそんな事を聞いたのかと言われたら、答えは単純だ。 興味、疑問。 眼鏡をかけた桜野のように地味で、平凡な容姿をした冴えない姿の真崎に。 気も小さくて、常に身を縮めているような奴に興味があったから。 そして、地味な姿をしている桜野に無意識なのかもしれないが羨望でも無い嫉妬でもない視線を向けていたから。 今の容姿に興味を持つ真崎はどんな人間なのか、気になった。 「……うん、好きだよ」 「ヤりたいとか思うの?」 自分から聞いておいて、この時桜野が真崎に対して性的な興味があったかと言われたら、それは否だ。 けど、聞きたかった。 「ヤりたいと、思うよ」 「俺に、いれたい?いれられたい?」 桜野自身、変な会話をしている自覚はあった。 事実、真崎と桜野はこの時初めて話をしたのだ。 そんな二人がする会話ではないだろう。 けれど真崎は、少しも不快の表情を見せずに、それこそ眉すら動かさずに答えた。 「いれさせてくれるの?」 熱っぽい声で言われて、熱い瞳を向けられて、おかしくなったのかもしれない。 「……良いよ、やらせてやる」 気付いたら、桜野はそう返事をしていた。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |