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◆Short Novels

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くちゅ、と薄暗い公衆便所の個室の中で響いていた。
そして時折聞こえる、鼻から洩れる息遣い。


「ほら、しっかり舐めてください」
「んぐっ」


鼻にかすむ、精液の臭い。独特の臭い。
顎も舌も疲れて限界だった。
樹の今の体勢はまるで犬のようで、滑稽で良い笑い者だろう。

指だけだったら良かったな、と冷静な自分が思い出す。
飽きたら、と言ったそれはもうどれくらい前の出来事なのだろうか。


「舐める事に集中してたら指止まってますよ?」
「ひぁっ!」


後孔に入れていた指を強引に奥に突き動かされ、咄嗟に口から離した。


「サボっちゃダメですよ」
「ぐっ……うっ……んん」


髪を掴まれて強引に再度咥えさせられた。
本当に愉快な光景だ。

汚い便器の上を跨がり、立っている青年のモノを口に咥えて舐めて奉仕して。
髪を掴まれて逃げられないようにされて、それでも舌を使って舐める。

娼婦みたいだと思った。
けれど、お金を貰ってないから娼婦よりも自分はくだらない人間だ。


「樹さんは綺麗ですね、やっぱり……」
「んぅ……ぐっ……」


何を言っているんだ、こいつは。
誰も今の樹を見て綺麗なんて言わない。
自分の精液と青年の先走りで汚れた顔、ほぼ裸で便器に跨がる格好。
今の姿のどこにも綺麗という形容詞で当てはまる箇所はない。


「今度こそ、俺の事忘れないでくださいね樹さん」
「んんっ、ふっ……」


忘れられるか、と思った。
こんなに強烈な印象を残しておいて、記憶から消えるわけがない。
どれだけ消したくても、決して消えない。
樹は青年のモノを咥えながら自らの後孔をほぐしながらも、必死に見上げて睨んだ。


「毎回その眼を見る為に苦労して、それでも忘れられるんですよ俺。そして死にそうになるんです、俺」


始まった。
青年の意味の分からない言葉。
誰かと勘違いしているのか妄想なのかは分からない。
けれど、そう言う表情の切なさだけは本物のようで。

訳が分からなくなる。


「あぁ、樹さん……ずっと待ってた。だから、もうあなたを犯しても良いですか?」


頬を撫でられて微笑まれる。
無理に決まっていた。
後ろは充分に解れていないし、今咥えているモノは大きくなるだけでまだ限界まで張り詰めている気配はない。
それなのに、犯される?
絶対に無理だった。

だから、樹は咥えたまま首を横に振った。


「うん、大丈夫ですよ樹さん。その怖さを、恐怖を、俺にください」


けれど、汗かいている額に口付けをされながら告げられたのは無情な言葉。
慈悲も何もない、悪魔のような言葉。
あぁ、この青年は狂っている。

青年は樹の口から先走りを出しているそれを抜き、立たせた。
狭い個室の中、強引に向かうような体勢にさせて、樹が慣れないながらに指を突っ込んでいたそこに代わりの何倍以上の太さと質量のあるそれを押し当てた。


「っ、やだ、」
「はい、無理です」


恐怖で身体の力が抜けていたのは逆に良かったかもしれない。
肩に乗せられた手は飾りのように体重をかける程の支えにならず、普段自らの体重を支えて歩く足腰は今や青年が腰に回した手により辛うじて地に足をつけている。
現実を見なければ良いのに、強い瞳をしていたそれは今から自分自身を壊すであろう怒張したモノに視線を移す。
怖いもの見たさというのはこの事かもしれない。


「あぁ、樹さん、可愛い、綺麗。ずっと待ってた」
「っ」


首筋に顔を埋められて、匂いを嗅ぐ鼻息を感じる事に寒気がして、皮膚を強く吸う唇の感覚に鳥肌が立った。


「…………早く殺せよ」


不意に出た言葉は弱々しくて樹自身驚いた。
けれど青年は樹のその発言に嬉しそうに笑みをこぼした。


「やだな、先に殺したのは樹さんですよ」


瞬間、濡れてもいない狭い孔に強引に熱い塊が侵入してきた。


「あ"あ"あ"あ"あ"!!!」


メリメリと身体を半分に割かれる感覚と、更に痛みと嫌悪と屈辱と恐怖と様々な感情が入り乱れる。
けど、同時に微かに感じるこの幸福感は何だろうか。

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