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◆Short Novels

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「っ、痛い……抜け……」
「我慢して」

逃げようなんて、思えなかった。
なぜなら、青年が強引に開かれていない樹の後孔へ指を入れていたから。
痛いしきついし、額に汗は滲むし最悪だった。


「お前……本当にこれ強姦だからな……覚えてろよ」
「終わった後なら、きっと樹さんは和姦だったって言ってくれますか」
「言うかよ!っあ!!」
「また、奥まで進んだね樹さん」
「も……ほんと、やめろ……」


最後までするつもりあるのか、とか。
和姦だと言われるその自信はどこから来るのか、とか。
聞きたい事はたくさんあるし、本当はこんな汚い場所から逃げ出したい。

けれど、汚い場所で知らない学生に汚い場所に指を入れられたとか、咥えられましたとか。
そんな事をどこに言えば良いのか。
しかも、年下の同性にされたなんて。
そんなの、良い晒し者だ。

プライドが高い方だと断言するつもりは無いが、男として最低限のプライドは持っている。
樹に、この状態で逃げられる度胸は持っていなかった。


「っ、は……」


楽になりたくて息を吐く。
自分の身体を支えるものが欲しくて不本意に青年の首に腕を絡めた。
そして体重をのせて、抱きしめるような体勢になる。

その為のプライドは、捨てた。

案外自分は、くだらないプライドの為に多少のプライドなんて捨てられる情けない人間なのだと。
後孔に入れられている指のきつさに苦しむ脳の片隅にある理性で、樹は自身を観察した。


「樹さん……そんなプライドは捨てないで良いですよ。だから、俺に今から何をされるのかをちゃんと実感してくださいね?」
「!!」


不意に耳許で、高校生が発しているとは思えない酷く艶のある声で囁かれた。
樹は反射的に顔を起こして、青年の顔をみた。


「あぁ、いいな。その顔。さすが樹さんだ」
「……てめぇは、何なんだよ……」
「俺はずっと樹さんを探してて、それで今から樹さんを抱くんです」


この青年は、こんなに男の顔をしていただろうか。
こんなに、捕食者の顔をしていただろうか。
学生服を着た高校生くらいの青年が、年上の同性に対してこんなにもギラギラした瞳を向けるのだろうか。


「い、嫌だ……やめろ」


絡めていた腕を解いた。


「樹さん、最後までされる事の屈辱さ、ちゃんと分かってますか?」
「っ、うるさい、やめろっ」


聞きたくなくて樹は耳を防いだ。
分かっていたつもりだった。
理解していたつもりだった。

けれど、本質からは目を背けていた。
それを、今この青年は樹に教えようとしている。
樹は初めて、この青年を怖いと思った。
塞いでいた手を片手で簡単にとられて、目と目を合わせる形にさせられる。
目を背けることを、許されなかった。


「理解じゃなくて実感してください。いつの間にそんなに貞操観念緩めたんですか?気高い心を捨てたの?」
「うるさい……分かったような事を言うな……い"ぁっ」


グリッと音を立てて、急に指が抜かれる。
衝撃に苦しみの声が出た。
青年は先程まで埋められていたその指を樹の前にかざした。


「樹さんは女じゃないから濡れてないですよね。……痛かったですか?でも、まだ全然後ろ解れてないんです」
「当たり、前だ……やめろ、こんなの」
「ねぇ、この指舐めてくれませんか?」
「はぁ!?」
「痛いの嫌ですよね?俺も樹さんに無理矢理して血なんて流して欲しくないです」


そもそもこの行為を止めるという選択肢が無いようだ。
青年は微笑みながら、蔑む目をしている樹に構うことなく指を口許に近付ける。


「精液も良いけど、それはまた後が良いですから。だから樹さん、ほら舐めてください」
「嫌だ」


自分で舐めて指を濡らしてそれを自分の後ろに挿れられて解してもらう。
それが屈辱的なことくらい、樹のなけなしのプライドでも分かる。
誰がそんな事をするものか。


「俺のモノをいれる覚悟したんじゃないですか?」
「っ、それは……」
「仕方なく?脅されて?」
「そ、そうだ」
「今俺はあなたを拘束していませんよ?」


パッと両手をあげた青年が、首を傾げて言った。


「っ」
「逃げれば良いじゃないですか。通報するのが嫌なら無かった事にすれば良い。幸い、まだ大したことしてないですよ」
「……」
「ねぇ樹さん、今から逃げますか?」


一度怖いと思った心が、今この状況から抜け出せるわけがない。
この青年を捕食者だと思った心が、この重たい身体を動かせれるわけがない。

そして、樹を探していたという発言と、ここまでする行動力と、その他の数々の発言。
もし今逃げたとして、この青年ともう会わないという可能性があるだろうか。
いや、無い。皆無だろう。


「樹さん、逃げますか?」
「……お前は最低だな」
「そりゃ、俺は樹さんを落としたんですから」


意味の分からない言葉にはもう耳を貸さない。
ただ、この身体を動かす力がなかった樹に、この青年に逆らう手立てはない。


「……舐めろって言ったよな」
「はい。自分で指を濡らしてください」


組み敷く征服欲を掻き立てる程の男らしい肉体でもない。
かと言って、女性の代わりにする程の華奢さもない。
そんな中途半端な身体の何を求めているかは知らないけれど、そんな身体で良ければ差し出す。
青年に飽きるまで捧げる。


「良いぜ、舐めてやるよ。んで俺に飽きたらさっさとそこら辺に捨てろよクソガキ」
「やっぱりそういう樹さんでないと……」


挑発的に唇を舐めた。
怖いと思った心に蓋をして、虚勢を張る。
訳の分からないプライドなら捨てる。
そんなプライドを持ってこのまま青年に抱かれてプライドを喪失したような気持ちになるのなら、抱かれてやっているという気持ちでいる。

年下の同性に好きにされて犯される屈辱さえも、喰ってやる。


「んっ…………ふ」


樹は、今から自分の後孔を慣らす為に使われる青年の 指に舌を這わせた。

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あきゅろす。
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