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◆Short Novels

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「ん、っ、んんん」

視界が毒だった。
甘い甘い毒がこの場に満ちている。
酩酊感があって、この空気に酔いそうだった。

用意周到な青年により、後ろ手に手錠で縛られた樹は本当に身動きが取れなくて青年から与えられる何もかもを拒絶する術がなかった。


「ん、ふっ……ひもちぃ?」
「んんっ……ふっ」


こんなの目眩がする。
見慣れない光景に対して樹は嫌悪よりも信じたくないという気持ちの方が強く生まれていた。

初めて会った青年に、自分のモノを咥えさせている。
樹が意図的にさせているわけではないけれど、そんな事は付き合ってきた彼女にさえさせては来なかった。

それなのに名前も知らない未成年の、しかも同性にさせている罪の香り。
そして、それをただ受け止めて快感を得ている自分。
最悪だ。

せめて、声が出せたら良いのに。
樹は青年の瞳を睨みつける。
気持ち良いかと聞かれて答えられるわけがない。
答えを求むのなら声を出せて欲しい。

どうせ、この状況では逃げられないのだ。


「……樹さん……声、出したいんですか ?」
「っ!!」


心を読まれたような問い掛けに驚くも、樹は頭を縦に振ることを優先させた。
この先この機会が巡って来るとは限らない。
それなら心が通じたような錯覚なんて気にしてられない。


「……まだのはずなのにね。やっぱり樹さんなんだね」


意味の分からない事は言わなくて良いから。
だから、早くこのネクタイを外して欲しい。
自分のネクタイを噛む上に、自分の持ち物特有の香りを常に嗅ぎ続ける事が倒錯的で、変に酔ってしまうから。


「良いよ樹さん。その代わり、たくさん声出して下さいね?」
「っ、ぷはっ!!」


ネクタイに掛けられた指、そしてズレて解放されて樹は思い切り息を吸った。
鼻で呼吸するのと口から呼吸をするのではやはり息苦しさが減る。
肩を上下に揺らして、樹は呼吸を整える。


「じゃあ、もう良いですか?早く樹さんの、咥えさせて下さい……」
「っ、ちょ、待て……んぁっ」


制止の声を待たずにカプリと樹のモノが咥えられ、その口内の感触に樹は堪らず声をあげた。


「ん、っあ…………んっ」


視線を逸らして瞳を閉じる。
学生服の青年に自らのモノを咥えさせて奉仕させているこの光景は今考えてみてもやはりおかしい。

けれど、おかしいのは同性に奉仕されても萎えていない樹の方か?

チラリと、勇気を出して樹は視線を戻した。


「あ……あ……も、やめ…………ひっ」


光景が、刺激的過ぎた。
樹は首を横に振り中止を訴える。

赤く長い舌がのぞく。
懸命にその舌が上下に動き、竿を舐める。
唾液と先走りで音が、聴覚を刺激した。

こんなの、卑猥だ。


「樹さん、俺はいつまでもあなただけを求めてる」
「っ、知ら、ないっ……だから、やめ、ろ」
「なんで?気持ちよくない?」
「んっ、よく、ないっ」
「……嘘はよくないよ樹さん」


涙目にして首を横に振った樹に、青年は優しく微笑んだ。


「天使様なんだから……そんないけない事を覚えちゃ駄目じゃないですか」
「お前、きもち、わりぃ……」
「うん。俺は良いけど、樹さんは駄目なんですよ?」


俺の言葉は全て真実で嘘が駄目だと言うのなら。
お前はそれを許されているというの言うのなら。
お前のどの言葉が、どの笑顔が、真実なんだ。

樹は青年に熱く育てられた自身のことも忘れて青年を見つめて考える。


「お話はおしまいです、樹さん」


カチャリ、と冷たい金属の音が鳴った。
軽くなった手。自由に動けるようになった両腕。


「……逃げれるぞ」
「うん、良いですよ?」


自由になって手足を見せびらかすようにして言えば、青年は気にしていないと笑う。
その何か隠している微笑みに既視感を抱いた。


「逃げれるならね?」
「いっ!」


今まで便器を座るようにしていた体勢が、突如便器を跨ぐようにして後ろ向きに立たされる。
ズボンが床に投げ出されたが拾おうという意識よりも、背後に青年が立っていることに恐怖を覚えた。

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あきゅろす。
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