◆Short Novels
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「お前本気で死ね……」
「そしたらまた樹さんを探します」
何度かここに至るまで樹は青年とやり取りをした。
その結果分かった事が1つある。
この青年は頭がどうやらおかしい。
「なんでこんな所に連れ込んでんだよ」
「近くだったから」
「死ね」
「はい、それはまた後で」
強引に引っ張られて連れ込まれた場所は近くの公園。
の、公衆トイレ。
幸い綺麗な所で良かった。
とも思ったがそれで許すわけがない。
正直本当に目の前の青年に消えて欲しかった。
「清潔な所で良かった」
「どこがだよ。トイレがそもそも汚い場所だろうが」
「樹さん、静かにしてください」
「は?なんでだ……んぐっ」
樹がしていたネクタイを手際よく外されて猿ぐつわのようにされた。
鼻呼吸が出来る体質で良かった。
出来てなかったから本当に殺される所だ。
けれど、それで束の間の安心感さえ生まれるわけではない。
今、樹は青年に強引に公衆便所の個室の便器に座らされて、両手を掴まれて拘束されている。
身の危険しか感じない。
話を聞いてあげようなんて思わなければ良かった。
「何度だって探すけどもう限界なんだ……俺そろそろ死ぬ。だから今度こそ樹さんに許されたい」
訳がわからないが、許されたいならまずこの拘束と場所をどうにかして家に帰らせて欲しい。
そしたら頑張ってこの事を水に流す努力をするから。
たぶん、出来ないだろうけど。
「あぁ、樹さん………いつでも貴方は綺麗で眩しくて美しい」
綺麗や美しいという形容詞は聞き慣れている。
男なのに中性的な顔立ちで勿体無いと言われてきた。
しかし、眩しいという言葉は初めてで、青年の視力を怪しんだ。
「……樹さん、ごめんね……」
「ーーーっ」
謝罪と共に、青年の顔が近付いてくる。
あぁ、お前の顔は俺と対称的で男らしくて凛々しい顔をしてるんだな。
視界が全て青年の顔で覆われる。
そして聞こえたのは、カチャリという金属音。
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