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◆Short Novels


「今日も疲れた……」

バイトが終わり、裏口から重い足取りでようやく帰路につく。
どっと深い溜め息をもらした。


「樹さん!!」


不意に聞いたことのない声で聞きなれた名前を叫ばれ、樹は振り返った。


「やっと……見つけた……」


声の主であろう学生服を身に付けた青年は嬉しそうな声を出して近寄ってくる。
生憎、知り合いではない。
逃げたくて仕方がなかった。

けれど足が動かなかったのは、疲労の為だろうか。


「樹さん……ようやく……あなたを見つけた……」
「っ!!離れろ!!」
「いえ、もう離しません。絶対に……」


誰なんだ、こいつは。
道の往来で知らない青年に抱き付かれ、樹は力の限り引き離そうと努力する。
ここはバイト先から近くて、誰に見られたものか分かったものじゃない。


「警察呼ぶぞ!高校生!!」
「っ」


学ランから推測を立て、樹は思い切り相手の肩を押した。
流石に成人男性の精一杯の力に、学生といえど多少はよろめく。
その隙に樹は背中を見せて走る体勢に移った。


「待って……」


けれど、即座に手首を掴まれ樹は逃げる事が叶わない。


「っ、本当に、警察呼ぶぞお前」
「呼んでも良いですよ」
「は?正気かお前」
「その代わり、もう離れないように印を残させてください」


ギリッと、掴まれた手首に更に力が込められた。
青年の眼は樹を捉えて離さない。
その瞳が余りにも強くて、樹も視線を逸らせれないでいた。
高校生のくせに、なんて眼をしてるんだよ。


「やっと会えたんだ……離したりしない」
「っ、痛ぇよ」
「樹さん、お願いだから……もう消えないで」


幽霊じゃあるまいし簡単に消えたり出来るわけがない。
そもそも青年と樹は今が初対面だ。
"もう"なんて言葉はおかしい。


「……印って、なんだよ……」


けど、話を聞いてあげる自分はもっとおかしい。
初対面のはずなのに何故か名前を知っている。
その上、大勢の前で抱き付いてきて以前にも会ったような事を言う。
変な人間な事は一目瞭然で本当に警察を呼んだ方が良い気がする。

けれど、妙に頭が痛くて、掴まれた手首が熱くておかしい。
だから、最後に話くらい聞いてあげても良いと思った。


「俺に、抱かれて」


前言撤回。
今すぐこいつを通報した方が良い。

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あきゅろす。
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