◆Short Novels
19
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「ぁ、も……やめて……」
四つん這いの体勢にされている佐藤だが、体は痛くなかった。
それは、濱本が脱いだ服が佐藤の下敷きになっているから。
「洗い流してあげるよ、全部」
手にたくさんの泡をつけて、まるで撫でるように濱本は佐藤の肌の上を滑らせる。
スポンジは使わない。
泡で包まれていても感じる濱本の肌の体温が伝わってくる。
どうしたら良いのか分からなかった。
「たった半日で何が変わるの」
「っ、違う、濱本……俺は」
時間じゃない。
出来事が、佐藤を変えてしまった。
けれど濱本は何も言わない。
話して触れて、いつも以上に優しい。
疑問ばかり生まれて、答えが欲しかった。
ねぇ濱本、お願いだから……。
触らないでーーーでも、捨てないで。
相反する気持ちが、佐藤の涙を誘った。
「ーーー俺以外にされたから?」
「っ!!」
不意に呟かれた確信に、佐藤は唇を噛み締めた。
「俺以外にこんな風に後ろに指入れられて犯されて、それをお前が逃げる事なく受け入れてしまったから?」
「あ……あ、あぁぁぁ……ごめ、なさ……ごめんな、さい」
「俺以外に触られて感じてお前は何回イッたの?何度気絶しかけたの?」
「ううぅぅぅぅ、ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい」
呼び起こされた記憶に、それを促す濱本の声に、同時に触れられているその感触に。
佐藤は癇癪を起こすように泣いて嗚咽をもらし謝罪の言葉を口にした。
「……それで、お前は何か変わった?前と一緒でしょ?」
「違う違う違う、俺は濱本以外の、濱本以外の人に!」
「人?誰が?」
濱本の言葉に振り返って否定した佐藤に、濱本は不思議そうに首を傾げる。
そして、今までに無い程に優しく、垂れた前髪を上に掻き上げて頬に手を添えた。
「俺にとって、さっきの奴らは存在してないよ?人の形はしてるけど、俺にとってそういう価値はないよ?」
「え?」
「壊れても構わない。だから苛々したから壊れても構わない物を蹴った」
淡々と告げるその言葉は声の冷たさによって更に冷淡な響きをしていた。
そして、思い出す。
佐藤を迎えに来てくれた時、濱本が視線を合わせて言葉を交わしたのは眼鏡だけだった。
他の人達なんて眼中に無い雰囲気だった。
「別にお前が感じるのはいつもの事だよ。玩具で一人で遊んで感じて何回もイクでしょ。ただ今回は俺が与えた物じゃなくて他のやつが勝手に与えた物だっただけ」
「でも、眼鏡に…………」
そうだ。
他の人達はそういう認識でも、眼鏡と話したのなら物だという認識ではないはずだ。
それなら、やはり。
眼鏡に犯されたのなら、それは玩具と戯れたのでは済まないのではないか。
「眼鏡とお前は同じ価値じゃないよ」
頬を撫でる手が優しくて、だからこそ何処か怖かった。
けれどそれ以上に安心する。
「そこら辺の机で自慰出来る淫乱が、今更他の物でどれだけ遊ぼうと俺は気にしない。それでお前が俺と俺以外に対する認識ではないが変わらない事くらい知ってる」
「……濱本」
あぁ、なんて酷くて優しい言葉なんだろう。
俺がこの先どれだけ他人から犯されて遊ばれたとしても、その相手が濱本にとって価値が無いなら気にされないし咎められない。
それでもきっと、俺の心が濱本から離れないことを知っているから。
俺が濱本以外に心惹かれないことを知っているから。
優しいけれど、冷たい。
けれど、やっぱり佐藤は濱本以外はありえない。
「ねぇ濱本…………」
「なに」
「洗わなくて良い。もう気にしないよ。だから……俺を壊して?」
頬に添えられていた手を握り、口付けた。
首に手を回して精一杯、おねだりをした。
「……遅かったね」
そう返事をしてくれた濱本は雑にシャワーノズルを持ち、全身にお湯をかけた。
「濡れるの本当は大嫌いなんだよ」
「うん、ごめんなさい」
「お仕置き、かな」
微笑んでくれた濱本に、佐藤も笑みを返す。
もう何処か壊れているのかもしれない。
けれど、そんな佐藤に価値を認めてくれる濱本だから、一生離れられないのだろう。
Continue……?
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