◆Short Novels
15
.
「……お前は、いつ俺の物になったの」
どれくらいの沈黙が流れたのか。
数秒だったか数分だったか。
けど、濱本から返事を待つその間が余りにも静寂に満ちていて、佐藤にとってはとても長い間そうしているようだった。
「ごめ、なさい……」
「お前は、いつ俺の所有物になったの。教えてよ」
抑揚の無い声が頭上から降ってくる。
「ねぇ、教えてよ」
四つん這いの体勢から僅かに見える、振り上げられる濱本の足。
蹴られる、と佐藤は反射的に身体を強ばらせた。
「う"っ」
けれど、呻き声を上げたのは佐藤ではなく、佐藤の背後にいた金髪ピアスだった。
呻くその声から、かなり痛いのだと察する。
同時にその反動で佐藤の後孔から指が抜かれ、ナカに空気が入り込む。
「ぁ……っ…」
ずっとそこに何かしら入れられていた為、急に無くなった圧迫感に、そこを満たしてくれと言うようにヒクヒクと動く。
止めてくれ。
濱本以外を、求めないで欲しい。
佐藤は無意識に空いてる片方の手を後孔へと持って行き隠そうとする。
濱本に、見て欲しくなかった。
「大人しく俺に管理もされない癖に、自惚れないでよ」
「…ごめ、なさい……」
本当にその通りだ。
濱本の物だなんて、そんなの俺の思い込みでしかなかった。
自分が恥ずかしい、消えたい。
佐藤は顔をあげる事も出来ず、今濱本がどんな顔してるかなんて分からなかった。
「だからさ……こいつらの前で謝るなよ、虫酸が走る」
「あ"ぁぁ」
そして苛立ちを抑えるかのように濱本はまた佐藤ではなく金髪ピアスをひたすら蹴った。
背中を丸めて身を守る金髪ピアスに何の躊躇いもなく、何度も腹部を蹴り続けた。
蹴られる金髪ピアスの呻き声を聞きながら、無傷の自分の身体を思う。
何で濱本は佐藤を蹴ってくれないのだろう。
蹴る価値も無くなったのだろうか。
一瞬でも触れるその価値さえ無いのだろうか。
「……本当、好き勝手してくれたよね」
「っ、は、濱本……」
深いため息をつきながら、濱本は佐藤に一瞬視線を向けた。
「お前も………君もさ」
「何を怒ってる?濱本」
そして視線は眼鏡へと向けられた。
凍てつくような視線を向けられたにも関わらず、眼鏡は初めて見る濱本のその姿に楽しそうに微笑んでいた。
学校では見せない、他人に手を出す乱暴な姿も。
好き勝手乱暴にされた佐藤が一度も眼鏡相手に怯える姿を見せなかった事も。
何もかもが、眼鏡の気持ちを高揚させた。
「佐藤、お前は確かに淫乱で汚いよ。けど、価値の無い汚い人間に触らせるのを許可した程、俺は寛容だったかな?」
「あ、あ、ごめん、なさ……」
そっと頬に添えられた手が、優しすぎて逆に濱本の感情を読みにくくさせる。
濱本が何に対してこんなにも感情を乱しているのか、佐藤には分からなかった。
「だから……同じ言葉は聞き飽きた」
「い"っ!!」
叩かれる。
その身構えで目を閉じた瞬間、ガンと地面に叩きつけられた音が響いた。
けど、佐藤には伝わらなかった音と比例する痛み。
痛みを受けたのは、濱本に背中を思い切り蹴られたせいで地面に転んだ柔道部だった。
また、佐藤には何の危害も加えられなかった。
ねぇ濱本、いつもみたいに俺を蹴って。
そして、好きに詰って、そして捨ててよ。
.
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!