◆Short Novels
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「洋平ー、イきたい?」
「んっ……イきたい……」
今更聞かなくとも、熱の象徴を手にしているのだから、意味通り手に取るように分かるだろうに。
なぜわざわざ聞くのだろうか。
篠田は火照る身体を持て余しながら、頷く。
「じゃあ、さ。…………後ろ、指だけで足りてる?」
「っ……ふぁ……んっ」
三本の指が再度埋め込まれて、バラバラと動き内奥を刺激する。
また、篠田の熱が再燃した。
「足りないよね?」
「んっ……でも……」
それでも、それ以上太いバイブを入れた事などない。と、心に秘めた声を飲み込んだのは、洋介の顔が今までと違い欲情に満ちていたから。
「……兄さん?」
「俺ねー、ずっと我慢してたんだ。洋平が後ろでもっと欲しいって思い始めるより、ずっと前から……」
思い返してみれば洋介は今まで一度だって服を脱ぐ事無かった。
いつも裸だったのは篠田だけ。
シャツ一枚だって、洋介は脱いだりしなかった。
その洋介が、今日初めて、ゆっくりと篠田に見せつけるように服を脱ぎ始めた。
「ねぇー、洋平?」
「………なに、兄さん……」
嫌な予感がした。
今まで、大抵何でも受け入れてきて、篠田は拒否なんてしたこと無かった。
でも、嫌な予感がした。
ダメだと思った。
「入れて良い?」
「っ!」
倒されていた身体を仰向けにされて、腰を抱えられる。
投げ出されていた足を強引に洋介の腰にかけられた。
洋介のモノの先端が、後孔にあてがわれる。
意味が分からない……なんてそんな初なことは言わない。
何をするの?なんて、聞かなくても分かる。
でもだからこそ、何をするのつもりなのかと色んな考えが頭を巡って痛くなった。
「入れるよー?洋平」
「ダメ、だよ…兄さん……それは、ダメ…だ……」
ねぇ、兄さん。分かってるの?
その行為の意味を、分かってるの?
熱を持つ身体と相反する青ざめた顔で、篠田は必死に首を振った。
たくさん、洋介に遊ばれてきた。
たくさん玩具を使われて、そのまま放置なんて事もあった。
洋介に対して奉仕をするという事以外は、玩具を使った事はなんでもしてきたし、受け止めてきた。
文句も言わなかった。
そういう物なのだと納得出来たから。
けど、これはダメだ。
「兄さん……お願いだから……」
親が離婚して名字が変わっているとは言え、正真正銘血の繋がった兄弟だ。
ただの先輩とかなら、諦めて受け入れたかもしない。
でも兄弟だから。
尊敬する兄だから。
これだけはダメだ、と分かる。
憧れてはいるけれど、篠田の気持ちはこの類では無いのだ。
この禁忌を犯したいとは思っていない。
「んー?なんで?今まで、たくさん洋平のここは入れて来たでしょー?大丈夫。痛くないよ」
「やっ、違う……」
そういう意味じゃないんだ、兄さん。
入れるのは、ダメ。
他の奴なら良い。
でも……。
「兄さん……入れないで……お願いだから」
「もう遅いよ、よーへい?」
グイッと腰を抱えてる手に力が入った。
「あっ、やっ、待って、兄さん…っ、ダメ……」
ゆっくりと侵入してくる、それまで入れてきた玩具とは太さも質量も存在感も異なるそれに、篠田は制止の言葉をかける。
ただの無機物と、人のそれの違いを身体が教えてくれる。
今までと大きさも熱さも、何もかも違う。
「……んー、やっぱ良いね。上手く出来上がってる」
「ふっ、はっ…ダメ、兄さん……も、ダメ…」
大きく肩で息をして、現実を直視したくなくて目を閉じる。
確実に今、篠田は実の兄の洋介自身を受け入れている。
奥まで入れていない今なら、まだ間に合う。
今引き抜いてくれたら、まだ引き返せる。
だって、奥まで入ってないのにもう息をするのも辛い。
内部からの圧迫感が怖い。
「……洋平。目、開けて」
「っ、嫌、」
ふるふると首を横に振る。
「……ちゃんと、見て?もう、奥まで入るよ?」
「あっ…あっ…嫌……兄さん…ダメ……」
今までとは確実に違う、侵略される感覚。
腰を抱く大きな手。
耳元で囁かれる声。
無機物ではなく人が、同性である男が、血の繋がった実の兄が、今篠田を犯している。
「はっ、あっ……あぁぁっ」
「…ほら、入ったよ、洋平」
最後まで埋め込まれた楔が、篠田を切り裂くようで。
苦しくて辛いのに、けど玩具だけでは足りていなかった身体が満たされていって。
こんなにも、自分の身体の制御も出来ないものだろうか。
「ふっ……はっ、あっ…」
「ほら、洋平、ちゃんと見て」
強引に開かれる視界。
映し出すのは、額に汗を浮かべて瞳が熱を帯びている、それまでの涼しくて余裕のある兄とは違う、洋介の姿。
突き付けられる、現実。
あぁ今自分は、兄に犯されている。
「あ、あっ、俺……んうっ……」
「綺麗な顔だねー、洋平」
顔中に降り注ぐ口付け。
洋介の瞳には、紅潮している篠田の姿が映っていた。
「本当に、綺麗な顔。好きだよ、洋平。だから、誰にも、見せないで」
埋まっていたモノが自由に蹂躙し始めた。
「はっ、待って、まだ……んっ、あっ、はっ……ひぁっ」
満たされていく快感が、嫌だった。
萎えていたモノがまた張り詰めていく感覚が、嫌だった。
視界を埋め尽くす洋介が、嫌だった。
「洋平、感じてるのー?前から、また出てきてる」
「あっ…言わな…ぃで……はっ、んっ…ふっ……」
洋介に言われたように、先端からはまた蜜が溢れてきていて、また熱を吐き出したいと訴える。
こんなに見境無く感じる身体が、憎たらしい。
受け止める身体にしても、これは受け止めなくても良かったのに。
こんな自分の全てが、嫌だった。
「洋平、ちゃんと、覚えといてよー?初めて犯されたのは、俺なんだってこと。血の繋がった兄貴だってこと」
「っ、はっ……やっ…兄さん…」
「そう、俺。その兄貴に犯されて、そんな風に乱れるんだって」
「んあぁぁっ」
グイッと洋介のが篠田の前立腺を掠めた。
途端、身体をしならせて声を上げる。
そんな篠田を洋介は満足そうに見つめて微笑む。
「よく見て、覚えて……記憶して。こんなに綺麗で……汚れてる自分のこと……」
「あ、あ、嫌、見ないで、見たく、ない……」
洋介の眼を通して自分の姿を見る。
実の兄に犯されて嬉しそうにしている自分。
玩具だけでは満足せず、兄に犯されている自分。
「綺麗な洋平……それを汚してる俺。ねぇ忘れないでね?俺に抱かれるたび……洋平は汚れていくんだ…」
頬に手が添えられて、洋介は呟く。
攻め立てる動きが早くなり、ナカをグチャグチャに溶かす。
「……はっ、やっ…も、ダメ……兄さん、俺、もっ……」
「今度こそ、イッて良いよ?俺にヤられて、思う存分、出して?」
容赦なく身体は絶頂へと高められて、それに反して冷めていく心。
ポッカリと心に空洞が出来る。
「あっ、んぁ……やっ…んぅ…」
あぁ、俺、兄さんに、ヤられてるんだな。
それなのに、俺こんなに感じてるんだな。
「洋平……俺もイくからねー?」
「ダメ、兄さん……中は、ダメっ……っん…あっ……あぁぁぁっ」
中に注がれる熱、同時に外に吐き出す熱。
「んっ、洋平……全部、出したよー?」
「ふっ…はっ……あっ…」
身体を震わせて、熱に耐える。
洋介が篠田のその身体を抱き締めて、耳元で囁いた。
「これで、洋平はまた汚れたねー?」
その言葉はまるで呪文のように、篠田を縛る事になった。
ーーーーー
「っ……あっ……嫌な、記憶……」
頭を抱えて、篠田はあの時の記憶のフラッシュバックに耐える。
「…………あの時、部長がいたから……俺は…」
思い出した熱を鎮めようと、篠田はお風呂場へと行き冷水を思い切り浴びる。
「でも……もう、頼れない……」
あの日からは幾度となく玩具ではなく洋介をこの身体は受け止めてきた。
そして卒業して、斉藤に告白されて、そしてまた情報の代わりに身体を差し出す自分。
「………本当は俺、部長に告白された時も綺麗じゃなかったんだよ……」
忘れてただけ。
忘れようと封じ込めていただけ。
それを、洋介が思い出させてくれた。
「ありがと、洋介……そんでやっぱり、あんたの事、許せないよ……」
何でも受け止めてきた。
でも、一番受け止めたい人を、受け止める事は出来ない。
そうさせた洋介を許す事は出来ない。
「…………でも、一番許せないのは、俺自身だ」
自分の何もかもが許せない。
全てが、許せない。
「……もう、会えないね、斉藤部長」
斉藤の目に映るどれも、過去すらも綺麗ではないのなら、もう会う資格なんて無い。
「今更だけど、あの日、助けてくれてありがと……」
もう会うつもりがない相手にお礼を言って、十分静まった熱に安心して流していた冷水を止める。
そしてやっぱり頭の奥で聞こえる声に、篠田は苦笑した。
「…………嘘じゃないよ、部長」
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