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◆Short Novels
14


「……ぁ……な、で……」

この掠れたか細い声は、濱本に届いてしまったのだろうか。
何があったのか物語るこの酷い声で、縋るように呼んでしまった事がバレてしまっただろうか。

後ろに咥えていない間は口で咥えて奉仕していた佐藤の舌はすっかり痺れていて、上手く舌が回らない。

けれど思考だけはスムーズに回転した。
その分、何を言えば良いのか分からなくて、佐藤はカツカツと近付く靴の音に全神経を集中させるしかなかった。


「ねぇ、何してるの?」


もう一度尋ねられた問いに、今度は感動とは異なる意味で全身が揺すぶられた。
今自分が置かれている状況と、トんでからの自分の醜態の全てが走馬灯のように駆け巡る。

裸で何も身に付けていない自分。
四つん這いになって至る所に自身と他人の精液を体に付着させている。
そんな佐藤の周囲を囲む2人の生徒。
一人は佐藤の目の前で咥えさせてもう一人は背後から犯していた。3人目をそれを眺めて楽しんでいた。

先程の佐藤の声を聞くよりもあからさまに酷いその状況を見られたという実感に消えたくなる。

俺は今何て汚い格好を濱本に見せてるんだ。
こんな俺は濱本に会ったら、駄目だったのに。
それなのに、まして名前を呼ぶなんて……。

佐藤の目に、再び影が宿る。


「ねぇ、聞こえてるの?」
「濱本君さ、わざわざ迎えに来たのー?」


最初に声を出したの背後にいた金髪ピアス。
佐藤を激しい律動で犯していたそれを音を立てて抜き、後孔からは中出しされた精液が流れる。
その感覚にさえ佐藤は身体を震わせて快感の波に耐える。

こんな状況の中でも快楽を得ようとするこの身体に、佐藤は呆れた。
嫌悪しか無いはずなのに、なぜこの身体は感じてしまうのだろう。
今目の前に、求めてやまなかった本物が存在しているはずなのに。
今まで自分の精神を誤魔化しながら、この生徒達を濱本に重ねながら、身体と精神に折り合いをつけていた。

けどそれは、結果的に濱本も汚した事になるのではないか。


「ごめんねー。お前の迎えが遅かったからたくさん遊んじゃったよ。お前の玩具よく遊ばれてるのか相当―――」
「ねぇ佐藤、聞いてるの?」


喋る金髪ピアスには一度も目もくれず、無視して濱本は通り過ぎた。
そして周り込んで佐藤の正面へと立つ。
濱本が問う言葉は金髪ピアスの言葉を遮り、益々金髪ピアスの気持ちを逆撫でにする。

佐藤にとっては、濱本のその声が、足音が、紡がれる自分の名が、その全てが佐藤にとっては幸せで。
だからこそ、面と向かって会って言葉を交わす事に、とてつもない恐怖を覚えた。

だって、自分は濱本と会う資格が無い。


「濱本君、無視すんじゃねぇよ」
「おい何だよこいつ」
「佐藤、聞こえてるのかな?」


金髪ピアスも柔道部さえも無視して、濱本は立ったまま佐藤に尋ねた。
佐野の目の前にいるはずの柔道部すら視界に存在していないような扱い方だった。

濱本の問う声からは感情が一切読み取れなくて、尚更佐藤は顔を上げる事は出来ない。
ましてこの醜態を晒している段階で佐藤にとってそれは羞恥心を超えるもので、死に値するくらいの事だった。


「……怯えてる。止めてあげなよ、濱本」


眼鏡の静かな制止の声に、初めて濱本はこの場に佐藤以外の人間が存在したと気付いたように後ろを振り返った。


「……君には聞いてないよ」
「でも、聞かれてる佐藤が答えないって事は、答えたくないんじゃない?」
「っ、違っ!」
「ほら、僕の時には喋った」
「……」


キッと濱本が佐藤の方へ振り返り、強く睨んだ。
それに対して佐藤は何も反論する事が出来ず、合わせた視線をすぐに逸らした。


「さすが君の玩具だね」
「は?」
「壊れずにたくさん楽しめた」
「い"ぁっ」


まるで示し合わせたかのように背後から不意に指が突っ込まれ、佐藤は予期していなかったその刺激に喉をのけぞった。


「あれだけしたのに、まだ出るみたいだしね……精神も壊れない」
「……あ、ぁ、やだ……やめっ」


濱本の目の前で、他人にされて感じている自分を見られたくない。
なのに、金髪ピアスの指が佐藤の前立腺を狙って的確に突き直接的に快感を与えてくる。


「どうやって躾たの?僕も欲しかったな、こんな玩具……」


眼鏡は佐藤の事をずっと壊れない玩具として扱った。
そこに心は無く、好きなように遊ばれた。

濱本になら、構わないのに。
どれだけ好きなように弄ばれてその後捨てられたって構わないのに。

けど、まだ濱本に捨てられてなかった状態で他の人間に遊ばれるのだけは耐えられない。


「お、れは……」
「ん?」
「俺は……濱本以外の、玩具には、ならない……」
「嘘つき。さっきまで僕達の玩具だったでしょ」
「っ、でも、本物じゃないから……」


目の前に、本物がいる。
そしたらもう、眼鏡に濱本を重ねたりしない。
この快感を濱本に重ねて得るなんて馬鹿な真似はしない。

けど、玩具であるこの分際で、濱本以外の人間にヤられたのは事実だから。
もう、そしたら佐藤の選択すべき道は決まってる。


「……は、濱本……さっきの、質問に、答える」
「……」


後孔に埋められた指の存在を今だけは忘れる。
平気だよ。
だって、今濱本が佐藤を見てくれているのだから。


「俺、濱本以外の奴にたくさん入れられて触られて、感じた……だから、俺濱本の物じゃなくなった……だから、俺を捨てて、殺して……」


たった一言、濱本にいらないと言われたら、俺はもうどうにでもなれるから。

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あきゅろす。
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