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◆Short Novels



記憶の中の篠田さえ綺麗に残せば、篠田にとって今存在している、けれど斎藤の世界には存在していない篠田自身には大した思い入れはない。


けれどこういう時は、自分の癖が嫌になる。


何でも見ておこうとする観察力。
聞き逃さないようにする聴力。
それらを記憶しようとする海馬。

どれも普段なら役に立つ物だけど、無意識に働くそれは今となっては裏目にしか働かない。
嫌なものを見て、聞いて、覚えてしまう。

それはたぶん、篠田がどの情報でも取り引きの材料として無意識に認識してしまうからだ。


誰かがその事を、自己犠牲と言った。
もう誰もそんな事は言わないけれど。

誰だったっけ。
そう言って切なく、俺を求めてくれたのは誰だったっけ。

……忘れた。
いや、忘れたいんだ。

だって、今それをまた思い出してしまったら、俺はこの状況に自己嫌悪して、もうあの人の顔を思い出せれない。
あの人から貰ったカメラを触れる事が出来なくなる。

だから、ごめんなさい。
綺麗な思い出なんて、忘れさせて。
忘れなきゃ、俺はあなた自身を忘れないといけなくなる。
思い出という名の情報を忘れたら、あなたを記憶する事は出来るから。
あなたを汚す事にはならないから。

同じ行為でも、あなたのだけは情報にしたくないんだ。
誰にも渡したくないんだ。
あの時の俺だけが記憶を許されたものだ。
今の俺も記憶したら、色々なものと混ざってあなたを汚してしまう気がする。

だから、無かった事にさせて下さい。
その代わり、今の俺を許して下さい。


「っあ」
「他のこと、考えないで下さいよ?」


こっちの事なんて考えない相手の身勝手な動きで急に現実に戻され、不本意に篠田は鼻にかかった声をあげた。
合っていない焦点をどうにか合わせたら、篠田の下にいる生徒が口角を上げていた。


「考えてないですよー?」
「ちゃんとしなかったら情報渡さないからな」


バカだなー、こいつ。
あんたさっき口走ってたじゃないか。
俺が、アンタのを舐めてやってる時に馬鹿みたいに。

それに実はわざわざこの生徒から直接情報を聞かなくても予想はしていた。
だから、正直こいつはもう用無し。

でも本人は分かってない。
主導権は自分が握っていると錯覚している。
篠田としてはその方が楽だから放っているが、それも段々面倒になってきた。

だって、この生徒がとても下手なのだ。


「あのー、そろそろイッても良いですかー?」


促すのではなく許しを求めるように尋ねた。
自分で動かないと、下の生徒の動きだけでは達する事は難しい。


「……あぁ、いいぜ」


ゆっくりとナカをかき回すように動けば、簡単に許可が降りた。
ちょろいなー、この生徒。
まあ良いや、その分早く終わる。


「っあ、は……んぅ、やぁ……」


生徒はあてにならないから、床に手をついて自分で腰を動かす。


「そんなに、情報が欲しいのか、お前…」
「あ、んっ、やぁ……」


情報を求め続けて、こんな行為をして汚れないと。
堕ちるところまで堕ちて、這い上がれなくなるまで堕ちたら、もしあの人に会った時、今度こそ拒絶出来る。
綺麗な思い出を忘れたまま、会える。


「……イクぞ、篠田」
「あ、待っ……や、あぁぁ」


ナカに出された熱い迸りを感じて、篠田も達した。
先に中出しされるなんて最悪だけど、それは言わない。
のけぞった瞬間、かけていたメガネが鼻先にずれ落ち、篠田は息を整えながら手の甲でそれを直した。
この程度の生徒に素顔を見られるのなんか、御免だ。


「……は……あ……」


ズルッと抜かれて、篠田は何の余韻もなく覚束無い足取りで服を引き寄せた。


「情報、教えて下さいねー?」


どうでも良い情報だけど、形だけでも対価をもらえないと割りに合わない。
生徒に言い、微笑んだ。


今まで一度だって――あの人の時以外に欲しい情報を、記憶を、もらった事はない。


ねぇ部長。
俺、意外とアンタに縛られてるみたい。

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