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◆Short Novels



「えっとー男ですかー?女ですかー?」
「そこから聞くのかよ」
「最初が肝心なんでー」

出だしからツッコミを入れられて、拾ってくれる丁寧さに篠田は内心楽しんでいた。


「意味、違うよな、それ」
「初心忘れるべからずー?」
「うん。それも違うよな」
「もう良いですよー。いいから、早く答えてくださいよー」


篠田が言うと「俺が悪いのか?」と斎藤が言ったが、篠田は特に気にしない。


「……そりゃ、探せって言ってるんだから男だろ」


斎藤は苦笑しながら答える。


「出会った場所はー?」
「学校」


逃げたな、と思い、篠田は質問の方向を変えることにした。


「じゃあ、どこが好きですかー」
「可愛いところ。あと、ちょっと抜けてるところ。目が離せないって言うか…。でも、しっかりしてる」
「いませんよー、そんな人」


矛盾し過ぎなそんな性格の生徒なんて聞いたことがない。
この人は幻でも見てるんじゃないだろうか。


「いるよ、ちゃんと」
「えー?」


篠田は疑いの目を斎藤に向ける。


「そんな目で見んな。他に質問はねぇのかよ」
「なんかー、何を聞いても冗談を言われそうな予感がしてきましたー」
「だから、本当だって」
「だって全然ヒントになりませんでしたー」


篠田は大袈裟に首を振る。


「お前な……」
「はぁ、駄目ですねー、部長は」


何だ結局出だしからスタートか。
篠田は斎藤を放って次の作戦を練りながら、露骨に溜め息をつきながら部室を出た。


ーーーーー


結局、斎藤から何かを聞き出すのは難しいらしい。
周りから聞くのも、無理みたいだ。

なら、どうするべきか。
残された手段はもう余り残っていなかった。

まだ帰って来ないだろう、多分。

斎藤が一人部屋で良かった。

篠田は寮の管理人から合鍵を借りて、斎藤の部屋に入っていた。
ちなみに、管理人から正式に借りたので、学校から追及されて困ることはない。


「何もないんですかねー」


斎藤の様子だと、かなり長い片思いのように見えた。
それなら、多少は相手に関する物を持っているはずだ。
ということで何かないかと物色する為、今篠田は斎藤の寝室にいる。


「……あ、そろそろ出ないと」


電気が点いてない暗い部屋で、篠田は腕時計で時間を確認する。
そろそろ部屋の主である斎藤が帰ってくる時間だった。


「ただいまー」


だが部屋の主は部屋を出ようとする篠田より先に帰宅をし、共同スペースである部屋の灯りが点いた。

あ、まずい。
出るに出れなくなった篠田は、流石に慌てた。
もちろん抜け出すなんて出来ないし、かと言ってずっとこの部屋にいる訳にもいかない。
斎藤に正直に言って出るべきか……。
けど、それは流石に間抜け過ぎないか?

篠田はいつ扉を開けられても大丈夫なように、開けた時に出来る死角のスペースで待機していた。

うん、やっぱり出よう。

篠田が決めた時、部屋の扉が開いて、暗かった寝室に光が入った。
斎藤の位置から篠田が見えないとは分かっているが、それでも焦りは生まれる。

あぁ。出にくい状況になったなー。

今から急に、こんばんはとか言って出て来たら益々悪い状況に陥る予感をひしひしと感じる。


「………」
「……はぁ」


斎藤は何故か溜め息をついて扉を閉めた。
助かった、と篠田がほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。


「――洋平、出てこいよ」


扉の外から聞こえる、間違えようのない自分に向けられた斎藤の声。


「……はーい」


篠田は無抵抗で返事をした。
なぜバレたのだろう。


「あと、部屋から出たら待機な」
「はーい……」

暗に勝手に帰るなと指摘されて、何を言われるか大体予測出来た。
篠田は誰にも見えていないけれど素直に片手を挙げて返事した。

そして、少しして水の音が聞こえた。
もしかして風呂に行ったとかー?
寝室で篠田は、その斎藤の行動に驚く。


「うわー。どれくらい待機させるつもりですかー」


篠田はおそるおそる寝室から出て、リビングのスペースに行く。
案の定、やはり斎藤は入浴しているようだった。


「……帰りたい」


自業自得とは言え、篠田はソファに座り頭を抱えた。

ーー

「……おい」
「……ん……」
「おい!馬鹿!」

思い切り頭に衝撃が走り、篠田は頭を抱えて目を開けた。


「……ご無沙汰してますー」
「人を待ってる間に寝るなんて良い度胸してんな」


やっぱり眠いなー。
昨日あんまり寝なかったからかなー。


「ふぁ…」
「欠伸すんな」


そして、篠田はまた斎藤に叩かれる。


「部長、叩きすぎですー。訴えますよー?」
「じゃあ、俺はお前を住居不法進入で訴えてやろうか」
「いやー、それはちょっとー」


どうにも眠い。
中途半端にうたた寝したのが不味かったらしい。
篠田は笑いながら、欠伸を何度も噛み殺した。


「洋平、そんなに眠いのかよ」


斎藤は、下にスラックス、上にランニングという格好で、ソファに横になっている篠田を見下ろす。


「はい、まあ、ちょっとー」
「……起こしてやろうか?」
「ありがとうございますー」


篠田は引き上げろという意味で腕を差し出した。


「そうじゃねぇよ」


斎藤はそう言いながらも、結局篠田の上半身を起こした。
なんだかんだで斎藤は親切な人だと篠田は知っている。


「眠気を飛ばしてやろうかって言ってんだよ」


斎藤は篠田の額を指で弾いた。
それでも若干眠気は飛んだが、完璧ではない。


「良いですよー、別に。遠慮しときますー」
「いや、余りにも眠たそうだから起こしてやるよ」


本当にそんな事しなくても良いのに。
篠田が言おうとした時、身体を起こしたはずの自分の背中が再び何故かソファに預けられていた。


「……部長?急に、どうしたんですか?」


何故か斎藤が篠田の身体の上で、微笑んでいた。
斎藤の濡れた髪から、雫が一粒篠田の頬に落ちて、篠田の分厚い眼鏡にも滴り落ちた。


「初めて聞いたな……」
「何をですか」
「お前のそういう喋り方」
「……」


言われて気付いた。
いつの間にか、出ていた。
篠田は黙って、頬に落ちた雫を拭った。


「眠気、飛んだだろ?」


斎藤は意地悪い顔で笑いながらも、まだ篠田の上に乗っている。


「……部長、案外性格悪いんですねー」


篠田は顔の横に置かれている斎藤の腕を退けようとしながら言う。


「悪いけど、お前ほどじゃねぇな。―――ただ」


斎藤は動かしていた篠田の手を掴み、ソファに縫い付けた。


「好きな奴を押し倒して何もせずに帰す程、俺は出来た人間じゃねぇ」


斎藤は、ゆっくりと篠田のチャームポイントと言える眼鏡を外した。


「……あの、部長?」


基本何事にも動じない篠田が、流石に今回は心の中がざわついている。
だって、余りにも自然だったから。
今この人、なんて言った?


「眼鏡ない方が、やっぱり良いな、お前」
「返してください……」
「ほら」


斎藤は篠田の上からどけて、素直に眼鏡も返した。


「……」
「―――カメラやるよ」
「え……なんで…」


斎藤から出されたカメラを、訳の分からないまま受け取る。
返したくても、そのまま強引に首にかけられたら、返すに返せない。


「卒業祝いのおまけ」


いや、普通それは俺の立場から言うこと。


「カメラ欲しがってたからな。やる」
「いや、部長……」
「じゃあな、洋平」


まだ言いたい事も聞きたい事もあるのに強引に部屋から押し出され、斎藤は遠慮なく扉を閉めた。


「ちょっ」


閉められた扉の前に立ち尽くす篠田。
最後に扉を閉めた時の斎藤の表情が妙に気になった。

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