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◆Short Novels

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何となく、本当に僅かだけれど変な予感がした。


「出ろよ、馬鹿」


濱本は図書室でその嫌な変な予感を元に佐藤へ電話をかけていた。
けれど、何度コールをしても出ない。
留守番電話に切り替わるだけだ。

佐藤が普段生活していて濱本からの電話に対してこんなに出ない事は有り得ない。
寝ているか、持ち歩いていないかだろう。

けれど、濱本と一緒の時ならともかく、1人で出歩く時に携帯電話を持ち歩かないという事は無いだろう。


「…家で寝てるなら構わないけどね」


そう納得した頭。
けれど拭い切れない不安。
矛盾する頭と心。


「あぁもう、本当にあいつは面倒くさいな」


濱本は髪を掻き上げて溜め息をつく。
今日は読書や課題も学校ではせずに早く帰ろう。
佐藤が心配という訳ではなく、訳も分からずに不安になっている自分が嫌だから。


「あ、濱本くん」
「……何ですか?」


不意に背後から呼び止められたのは担任で現代文を担当している教師。
いかにも文学を好んでいるといった風貌で、からかいやすい性格をしているので、大体の生徒は好んでいる。
とは言え、濱本は興味さえ持っていないけれど。


「先生、何か用ですか?」
「あ」


というか、教師が図書室に来るなよ。
若干理不尽とも言える苛立ちが込み上げてきた。
心底面倒だけれど、仮にも相手は教師なのでむげにも出来ず、濱本は比較的丁寧に応対をする。


「佐藤くんの事なんだけど……」
「今日休んでるからですか?申し訳ないんですが、俺も理由は知らないんです。すみません」


聞かれるであろう事を先回りをしてサラサラと言葉を紡いで返答すると、即座に濱本は踵を返して担任の元から去ろうとする。


「あ、待って」


けれど、呼び止められた。


「……何か?」
「佐藤くんの事は関係あるけど、今日の休みの事じゃないんだ」
「それなら?」
「佐藤くん、よく喧嘩して問題起こしてるから、一緒にいる濱本くんが心配で……」


なんだそんな事か、と呆れた。
この言葉を濱本は佐藤といる限り何度聞かれるのだろうか。
けれど、何度聞かれても応対する言葉は決まっている。


「俺が佐藤といても危害はないし、佐藤が俺に危害を加えることは無いので大丈夫ですよ。ご心配をおかけしました」
「そうなんだ」
「はい。だから本当に大丈夫です。それでは、失礼します」


今度こそ帰宅する事が出来る。
大したことのない用事で足止めされるのは堪らなく嫌だ。

濱本は軽くお辞儀をして担任に背中を向けた。


「……信頼してるんだね、二人は」
「え?何か?」


ハッキリとは聞き取れず、濱本は咄嗟に振り返って聞き返す。
けれど、返って来たのはいつもの担任の柔らかい覇気のない笑顔。


「ううん、何でもない。引き止めて悪かったね」
「あ、はい」


何だったのかと不思議に思いつつも、そこを気にして追求する程の興味は無い。
そこに割く時間も無い。
濱本は足を進めて図書館を後にした。


「……濱本くんに、佐藤くんは相応しくないよ」


その暗く淀んだ声が、濱本の耳に届くことはなかった。


ーーーーー


よく濱本から注意はされていた。
“誰かれ構わず喧嘩を買うな”と。
濱本以外に対しては極端に短気ですぐ手が出てしまうから、それでよく濱本には尻拭いをしてもらう事もあった。
その度に、相手を選べともよく言われた。

それに対して、今日は本当に、その通りだと実感した。
やっぱり、濱本の言う事は全て正しい。


「あっれ?もう学校終わったのにどこ行くの?佐藤」
「学校サボっちゃ駄目でしょ、佐藤くん」
「何か急いでる雰囲気だな、どこ行くんだ?」


全く知らない同じ制服を身に付けた学生数人に道を塞がれ、佐藤はジッと相手を眺める。
見た目が柔道部風な生徒、金髪、眼鏡の3人が主で、後ろにも数人引き連れているように見えた。
自分が何かした腹いせなのだろうと漠然と予想しながら、けれど意識はその向こうの学校にいるだろう濱本の元へ行っていた。

だから、いつもより反応速度が遅くなっていた。
それは思考のみが原因ではなく、昨日からの行為と先程の自分の行為からの身体の重さも原因ではあるだろう。


「っ!!」


佐藤の背中に鈍痛が走り、そしてその衝撃から佐藤は意識を飛ばした。

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あきゅろす。
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