◆Short Novels
「今日は、言ってみる」
「だから、大丈夫だって。心配し過ぎ」
津野は自分を過小評価し過ぎなんだよ。まあ、過大評価でウザいよりは良いけどさ。
「まあ、なるようになるか」
「急に楽観的だな」
「大学は勉強する場所だからな。一人でも大丈夫だろ」
「へぇー…」
そんな事言って、どうせすぐ彼女作るくせに。
「そういや、お前髪染めねぇの?」
「……今ん所、予定は無いかな。お前は染めんの?」
「当たり前だろ」
「……言うと思った」
俺は染めないけどな。髪痛むの嫌だし、金かかるし。一度染めてもどうせ就活の時には黒に戻さないとダメだし。そんなのめんどくさい。
「中学の時な紫とか言ってたけど、止めろよ?」
「流石にそれはねぇよ」
「是非そうしてくれ」
きっと、茶髪の津野はカッコイイと思う。
でも、見せてなんて言わない。
だって、どうせコイツ見せてくんねぇもん。そういうの嫌がるし。
だから、言わない。答えが分かってるのに敢えて言うなんてバカみたいだろ。
そんな時、ふと湧いた小さな願い。
「…お前さ、ちゃんとこっちに帰ってこいよ?」
どうせ最後だから、少しくらい、お前に縋っても良いか?
いつも我慢して我慢して、お前の言う通りにしてたから、少しくらい我が儘言っても良いよな?それくらい、許してくれるよな?
「ちゃんと帰るって」
「…どうだか。めんどくさがって帰って来ない気がすんな」
「大丈夫だって。結構頻繁に帰るって」
「ホントかー?」
「俺、嘘言わないタイプよ」
知ってる。お前嘘言わないよな。でも、信じれないんだよ。だって、俺はお前に執着してるけど……好きだけど、お前は違うじゃん。
お前は俺のこと、ただの友達だと思ってんじゃん。
「お前こそ、メールしろよ?いつも俺からじゃん」
それはそうだろ。俺がメールして、お前の邪魔したら嫌じゃん。ウザいとか思われたくないじゃん。
だから、いつも俺は津野からのメール待ち。遊びの約束は津野から。俺からは絶対しない。
メールが津野で途切れたら、俺はずっと待つし、その状態で何か言いたい事があってもメールはしない。だって、アイツで終わってるんだから。
「迷惑とかあるかもだろ?」
でも今日は、素直に言ってみる。
いつも言わないけど、今日は言ってみる。
「無いって、そんな事」
「わかんねぇだろ?ウザッて思うかもしれねぇじゃん」
「お前、ホント受け身だな。もう少し能動的に生きろ」
お前にだけな。
何でもかんでもお前を尊重して行動するのは、お前にだけだよ。
「……努力する」
どうせ、無理だろうけどな。
俺はどうせ、自分からメール出来ないだろうな。
でも、これ以上言うとしつこいって思うだろうからもう言わない。
「…なんか忘れられそうだな、俺」
「大丈夫だって。頻繁に帰るし」
「……なら、良いけどな」
期待はしてないけどな。
お前の中の俺の存在なんて、凄くちっぽけなんだろうから。
簡単に俺の事を忘れる事が出来そうだから。
俺はこんなにも、お前が好きなのに。
友情とかじゃなくて、お前が好きなのに。
醜く嫉妬するくらい、お前の事が好きなのに。
「中塚、お腹すいた」
「……どうせカラオケに持ち込みすんだから我慢しろ」
本日初めて、津野が俺の名を呼んだ。と言っても、名字だけど。
そんでその後、五時間ひたすらカラオケして、まともな会話はここで終了。
寂しいなんて思ってたのは、どうせ俺だけ。
俺のこの想いは絶対に報われない。
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