03
ヤバイと思って体を動かすに動かない。ギリギリと締め付けてくる術式に苦し気に息を吐き出す。なんとか声を押し殺すにも痛くて苦しい、離れてほしいとくぐもった声をだす。
静かな神社にはその声がアイツの耳に届くのはあっという間で、いやな砂利を踏む足音が聞こえる。
首を振って来ないでくれと願うが届くはずもなく、顔を掴まれ動きを制限させられる。多分、狐になれば逃げれはした。しかし、此処で元の姿を晒してしまえば二度と此処へは戻れない。子の町に居られなくなる。
エレンは歯を食い縛り届きもしない願いを天に祈る。目の前の払い屋はなにかをブツブツいっているらしく、また、術式の縛りが強くなる。
早く姿を表せ、とでも言うように。姿を出せばキット殺される。払い屋は妖怪自体が何なのかを知らない限り払えない。術式はドンドンきつくなり、白いエレンの肌に食い込んでいく。
腕からはタラタラと紅い液が伝い、見えないながらいっそ焦る。最善策を考えるに痛みで頭が回らない。声を出そうにも喉でつっかえ出てこない。
払い屋はなかなか姿を表さないエレンに苛々し始め、顔を掴む手に力が入る。エレンはもう無理だと諦めかけ、化けの皮を剥いでしまおうと力を抜きかけたとき、地面に付いていた足が外れ、視界が一気に空に向かった。
そして、体の痛みから解放される。と、同時に誰かのうめき声が聞こえる。何が起こったか確認するに体がズキズキ痛みダルくて動かせない。目でさえ開ける気にならない。すると、頭の上から男性の声が響いた。
「子どもを苛めとは悪趣味だな。」
「…ッ」
誰だろうか、わからないが暖かい何かに包まれている。そう、まるで前の神主の膝の上みたいだ。
「ぐはっ!」
誰かが苦しむ声が聞こえる。さっきの自分のような。同時に砂利を踏む音と鈍いドンッという音も耳に入る。誰かが誰かを蹴飛ばしたようだ。
「くっ…誰だ」
「ほう、まだ喋る余裕があるか。」
「お前…ゲホッ!妖怪だな」
「つまらん質問だ。俺が誰だろうと関係はねぇ、それにお前に誰だと言うほど廃れた名前じゃねえ。」
ああ、払い屋から誰かが俺を助けてくれたのかと微睡む頭が他人事のように浮かんでくる。
「お前も、此処から追い出してやる。」
「出来るもんならやってみろ。こんな術式で縛れるのはいいとこ若い狐か狸、猫もかからないだろうな」
エレンを抱き抱える男は愉快そうに、笑う。払い屋は体を起こし、負けないと言わんばかりに術式を縛り治そうとする。が、やはり蹴りを入れられ呻き、砂利を引きずる。
「たいした力も無えのに払い屋なんかやってると面倒な奴に恨み買うぞ?」
「五月蝿い、妖怪が!」
「…喧しいのはどっちだ。」
男は払い屋の頭を踏みつけ、減らず口を叩くなとでもいうように砂利に埋めていく。払い屋は苦しいのかかなりもがいているが、男は止めようとはせず、気を失う前に足を放す。
そして、起き上がろうとする払い屋をまた踏みつける。それの繰り返し。エレンは怖くて見はしないが大体なにが起こっているかは把握できていて、男によりいっそしがみつく。
「…」
「もっとタフな奴かと思ったが所詮人間か」
独り言のように呟いた男は、意識のない払い屋を神社の境内の脇に蹴飛ばし、エレンを地面に降ろす。エレンは狛犬がいる台の元に降ろされ石段にチョコンと座り込む形になる。
「此処らはコイツらがよく彷徨いてる。気を付けろ。次はないからな」
「あ…ありがとうございます」
その男はエレンの頭をクシャリと撫で、何処かに消えてしまった。黒いフードとコートのせいで誰かはよく覚えていないが、赤く光る目だけはエレンの頭に焼き付いた。
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