10
「おかえりエレン…今日は早いわね」
エレンはあの後久し振りに狐の姿に戻り、駆けて帰ってきたのだ。狐の姿に戻るのは1年ぶり、いや2年以上前だった気がする。身体は思ったより伸びていて、前回より体力も速さも上がっていた。
アスファルトの上だけど、風に流れる体が心地よい。家の屋根を飛び走ったり、首を繋がれた犬を馬鹿にしたり、久し振りの滑走についつい遠回りして息がきれるまで走り回った。
帰ってきたときには汚れていて、泥や砂でベトベトだ。それを見たミカサは別に気にするでもなく、時間帯にしては早い帰りのエレンに声をかける。
「久し振りに狐で走り回ってきたんだ、アルミンは出掛けたのか?」
「アルミンは出掛けていった…そう、何かあったの?」
「今日は鳥居で…いや、何でもない。風呂入ってくる」
「…エレン」
エレンは今日あったことを話そうとしたが、今ミカサに話すと面倒なことに気付き、口を閉ざし、逃げるように風呂へと転がり込む。
(危ね…ミカサに言うにはもう少し後の方がいいよな…せめてアルミンがいればいいんだけど)
エレンは着ている服をかごに投げいれ、シャワーのコックを勢いよく捻る。まだ湯の出ない水は冷たいが、走り回って火照った体にはちょうどいい。
適当に体を洗い、空腹なのに気付いたため湯船に浸かる気にはなれず、出ていく。シャワーと走ったせいでまだ汗ばんでいるため、服を着る気にはなれずズボンだけを穿くと上着は手に持ち、上体は何も身に付けずリビングに顔を出す。
リビングには今だ寛ぐミカサと、自分が風呂に入っていった時に帰ってきただろうアルミンがいた。
「アルミン帰ってきてたのか」
「うん。エレンもおかえり…そう言えば今日は会えたの?」
「…えっと…」
「もしかして会えたの!?」
「!!」
エレンのたじろぐ反応にアルミンはもしやと思い、口に出す。それを聞いたミカサは此方にすばやく振り返る。何時もはハッキリといない、と答えるエレンが考えたと言うことは何かあるのかとアルミンは気付く。
それに、あれだけ会いたいと言っていて会えたのだから喜ぶ筈なのに何故か腑に落ちない顔をしている。
「エレン…どうかしたの?」
「いや、大したことじゃないんだ」
「そう…か」
誤魔化すエレンにアルミンは何かあるのだと聞くがエレンは何も言いたく無いような、けど何か言いたいような反応を示す。ミカサがいて話しづらいのだと気付くには多少の時間がかかったが、今はどうしようもできない。
アルミンは「部屋にいくよ」と告げ、明日どうにかしようとエレンに振り返る。エレンはよくわからないなりに頷き、「俺も部屋に戻る」と言い、ミカサはリビングに残される。
「エレン、何か隠し事でもあるの?」
「な、無いよ。」
「本当?」
「ああ、本当だよ。」
ミカサは疑い晴れない。みたいな顔だけどエレンを咎める理由もない。諦めて振り返った頭を元に戻し、大して見る理由もないテレビに顔を向ける。
エレンはミカサにはまだ話せないかと、自室に逃げるように潜り込む。ただ、エレンの頭にはリヴァイの姿が鮮明に張り付いていた。
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