Geass×PERSONA3パロ
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「私の名は、イゴール。…お初にお目にかかります。こちらはエリザベス。同じくここの住人だ」
そう紹介を受けると、エリザベスは軽く挨拶をした。
「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所…人は迎えるなど何年振りでしょうな」
そう嬉しげにイゴールが言うと、ルルーシュが寮に初めてきたときに書かされた書名が目の前に出された。確かにそこには自分の字で自分の名前がかかれている。あれは、夢ではなかった。
「ここは、何かの形で”契約”を果たされた方のみが訪れる部屋…今から貴方はこの”ベルベットルーム”のお客人だ。貴方は”力”を磨くべき運命にあり、必ずや私の手助けが必要となるでしょう。貴方が支払うべき対価は一つ。”契約”に従い、ご自身の選択に相応の責任を持っていただくことです」
ルルーシュは全く話の糸がつかめなかった。なんでこんなヤツの力を借りるハメになるのか、そして、ここの空間はあまりにも曖昧な、不安定な感じがする。
そして、それ相応の責任とは抽象的過ぎる。こんなのが、現実なはずがない。
「これは夢なのか?」
ルルーシュはただそれだけ聞いた。解ったなど、簡単に答えられる内容ではない。
「左様…現実の貴方は今は眠りの中にいらっしゃる。いわば貴方は、夢としてここを訪れているに過ぎません。しかし、いずれはご自身の足でいらっしゃる機会もあるでしょう。…これをお持ちなさい。契約者の鍵を」
ルルーシュは一つの鍵を手渡された。一体何の鍵なのかは全くわからない。
「また、お会いしましょう」
「!!待て!なんだこの鍵は!?客とはどういうことだ!?力って一体…!」
ルルーシュはあわててたまっていた質問を次々吐き出すが、返ってくることはなかった。
むしろ、自分の意識がその部屋…空間から遠のいていくのだけしか、感じられなかった。
―――4月9日 朝
ルルーシュはいつもと変わらない様子で目を覚ます。だが、頭にはどことなく不思議な感覚が残っていた。
「…夢…でもみたか?…久し振りだな、夢なんてみるのは」
いつからだろう。ルルーシュは気付いたら夢を見なくなっていた。だから、この感覚はひどく新鮮だった。途切れ途切れにぼんやりと残るこの感覚が。だが、ほとんど思い出せない。
でも、所詮は夢。ルルーシュは支度を手早く済ませ、学校に向かった。
「ルルーシュ!」
朝っぱらから大声で呼ばれる。もう声だけで顔が出てくるのが憎たらしい。振り向くとそこにいたのはやはりリヴァル。
「おはよ!いい天気だよな!…オレの門出を宇宙が祝ってくれてるんだな…」
リヴァルはしみじみと空を見上げた。なんで朝からこんなにテンションが高いのか低血圧なルルーシュには理解しがたいことだった。
「お前もう帰ったほうがいい。ついでに医者にいって脳の精密検査を受けてもらえ」
ルルーシュはイヤミたっぷりにそういった。プラス、冷ややかな視線。
「じょ…冗談だって!そんな目で見るな!」
「冗談でもおかしい。朝っぱらから元気すぎなんだよ。それにお前のバカでかい声は耳障りだ」
「ひどいっ!」
リヴァルが横でぎゃーぎゃー騒ぐのをほとんど無視しながら、ルルーシュはまた足早になる。
「なぁ、話変わるんだけどさ。お前チェス…得意だったりしない?」
ルルーシュの動きが一瞬止まった気がした。
「…まぁ。弱くはないな」
「やっぱり!お前オーラがどっかの貴族見たいな感じだし、話し方が頭のキレるヤツっぽかったからな!」
「…それが何なんだ?」
ルルーシュは、勝手に予想が当たってはしゃいでいるようにしか見えないリヴァルを横目でみた。話しがまったく見えない。
「なぁ、どれくらいの腕前?」
「…さぁ。でもお前より強い自信はある。お前の思考回路は単純だからな。…もう遅れる。話はここまでだ」
ルルーシュはリヴァルをおいて一人小走りで教室に向かった。リヴァルもたっぷり間を三つおいて、時間を確認し飛んでいった。ちなみに、リヴァルはギリギリ遅刻扱いだったようだ。
昨日と変わらずにつまらない授業を受けたルルーシュ。この程度の授業なら、テストも心配ないだろう、そう勝手に思いながら居眠りまでしていた。
―――その放課後。
リヴァルがルルーシュにHRが終わるや否や突撃してきた。
「ルルーシュ、是非ともチェスの手合わせを!」
朝の続きか、ルルーシュは軽くため息をつく。面倒なことこの上ない。
「リヴァルとルルーシュがチェス?」
まだHRの終わったばかりの教室には、大勢の生徒がいる。リヴァルが持ち前の大声で手合わせを申し入れるものだから、他の人の耳にも当然聞こえるわけで。
「おい、転校生がリヴァルとチェスだってよ!どっち勝つか賭けねえか?」
生徒がぞろぞろ集まり始めた。ルルーシュの逃げ場は正直、ない。
「おい、なんでこんなに人が集まる…?」
ルルーシュは露骨にうんざりした表情でそういった。リヴァルの顔に一瞬冷や汗が見えたのは、おそらく気のせいだろう。
「オレ、こう見えても学校内でのチェスの腕前はそこそこ上なんだぜ?」
こんなヤツがか、それじゃほかの連中も高が知れているな、ルルーシュはあえて声に出さない。
極力目立ちたくもない。
「転校生に500円!」
「オレは、リヴァルに700!」
「ルルーシュってやつ頭よさそうだよな…。転校生に1000円!」
ルルーシュの意思とは関係なく、もうチェスの試合が行われること前程で賭けが始まっていた。
「…待て、俺はこのゲームに勝ってもなんの利益もない」
「お前が勝ったら、さらに強いやつにあわせてやるよ。お前、かなりプライド高いだろうし。ついでに小遣い稼ぎにもなる…っとこれは余計か」
ルルーシュは最後の方が気になったが、とりあえず黙っておく。しかも、リヴァルに勝ってもさらに強いヤツの相手をさせられるだけ。面倒だった。
「面倒だな。そんなの興味ない。俺は帰りたいのだが」
ルルーシュはとりあえず一人になりたかった。こんなヤツらの相手なんかしているほうが時間の無駄になる。
「なんだ…ランペルージって弱いのか…?」
何気なく言った、ある生徒のこの一言が、ルルーシュのプライドに火をつけた。小声だったが、ルルーシュの耳には確かに届いていた。
「…誰だ?弱いって言ったのは…?…いいだろう。1回だけ相手をしてやる。俺が勝ったらお前とはもう手合わせしない。お前が勝ったら好きにしろ」
さっさとはじめるぞ、そう言ってチェス盤の上に駒をそろえる。
「黒はお前にやるよ」
ルルーシュは余裕があった。今までルルーシュは様々な人と、もちろん大人と手合わせしてきたが、負けたことなど一度もなかった。
「よ…余裕だな。ルルーシュ…」
「俺は早くかえりたい。だから俺の持ち時間は最初から1手5秒の制限つきでいい。お前も頼むから長考しないでくれよな」
ルルーシュの発言に周りが息を呑んだ。1手5秒。脅威の速さだった。回りはリヴァルが学校の中でも強いほうなのは知っている。だから、なおさらだった。
「じゃあ、はじめようか」
ルルーシュはそう言った。リヴァルはルルーシュの見えない威圧に少し冷や汗が流れていくのを感じながら、ポーンを一つ進めた。
その結果に周りはただただ呆気にとられていた。ルルーシュ一人が涼しい顔をしている。
「これで解っただろう。お前では役不足すぎる」
全く勝負になってない、そんな感じだった。前半数手まではリヴァルの表情はにこやかだった。思ったとおりに進めていたのだろう。
だが、それはルルーシュの策だった。リヴァルは、自分優勢だと信じ込み駒を進めていた。いや、進まされていた。その裏でルルーシュは着実に、最短でたたみかけれるようになんの迷いもなく駒を進める。
そして、優勢だと信じたリヴァルはチェックをかけられる5手前で、顔色が急変した。
「レベルが違いすぎる…」
誰かが呟いた。素人からみてもその力は歴然で。
「…ルルーシュ!お前の腕を見込んで頼みがある!」
立ち去ろうとしたルルーシュを、リヴァルが引き止めた。
「なんだ…お前の相手はもうしないし、この学校で一番になる気もない」
「違う!そうじゃなくて…!ちょっと倒してもらいたい相手がいるんだ!」
「…?」
ルルーシュの眉間にシワがよる。また面倒なことになるのは明白だったから。
「今度、ちょっと頼む!この通りだ!お前が勝ったら俺とは手合わせはしないってだけだっただろう!?」
リヴァルが必死だった。何かはわからないが、とりあえずそれだけは伝わった。
「…まぁ、お前とはその約束だけだったからな…まぁ、考えておこう。何か事情があるのなら」
「!!」
リヴァルの顔が少し明るくなった気がした。本当によっぽどのことがあるのだろう。多分、かなり面倒な。
自分でもなんでそんなことを了承したのかわからないが、ああいうのを放って置くのはあまり気持ちのいいものではない。だから了承したのかもしれないな、とちょっと思っていた。
「ただ、その事情もただ事ではないような気がしてならないがな」
ルルーシュは壮付け加えて一人教室を後にした。リヴァルは、ルルーシュがただクールで冷たいヤツっていうわけではないのかもしれない、そう思っていた。冷徹なら、多分軽く気って捨てられただろうに、”考えておく”なんていわれた。
「案外…いいヤツ…?」
これを境にさらにリヴァルが調子に乗り始めたことにルルーシュが気付くのはまだ先のこと。
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