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大丈夫だ問題ない

唐突だが私はロイド・アーウィングという。こうして名を名乗るだけで詳しく話すまでもなく大体のところを察して頂けると思う。そう、異世界・転生・成り代わりという三重苦。
ひどい話だ。

例えば、現役十四才が右目を疼かせたり、羽根を生やしたり秘密に満ちた辛い過去を持つ暗殺者の真似事をしていたならば、黒歴史となるであろう近い将来を思って生温く微笑んでやれば済むだけだろう。
厨ニ乙と。
しかし、意図せず渦中の人となってしまった身としては正直ツラくて仕方ない。
というか記憶は定かではないが確か成人していたんじゃないかなーという意識があるので、ツラいというかキツイ。イタイとも言う。あいたたたー。

私が“私”の記憶を思い出したのはダイク氏、もとい親父殿に拾われた後のことである。それ以前の約三年間の記憶は原作ロイドと多分どっこいどっこいだと思われる。ぶっちゃけあんま覚えてない。が、まあそれで悩んだことは全くなかった。
というか親父殿に育てられるうちじわじわと湧いて出た現代日本人の記憶に侵食されるのに忙しくて、他に思い悩む暇なんてなかったと言うのが正しい。現在の自分が如何に中学二年生的状況か思い知らされる度にSAN値は削れていく。全てを飲み下し悟りを開くまでの私は親父殿曰く大人しいを通り越して無気力な幼児であったらしい。ずいぶん心配を掛けたようで申し訳ないが、常時パルプンテに近かった私はその辺りの記憶が飛び飛びである。
成長して精神が落ち着きを取り戻してからも余裕が出来たかというとそうでもない。何せ前世には存在しなかった魔物というファンタジーな脅威が其処らじゅうにいるのである。
前世の私の意識からして如何に世界観がファンタジーであっても、現実に奴らが取る行動は単なるアメリカンB級ホラーでしかない。つまり未知の化け物どもは常に腹を空かせ、弱者たる我々を補食せんと狙っているのだ。まあ人間なんて武器がなきゃ二足歩行する弱い猿だから、狙われるよね。優先的に。魔物が身近過ぎる世界に危機感を覚えた私は体を鍛えざる負えなかった。
だって確かに村から出なきゃそう頻繁に遭遇することはないが、裏を返せば一歩外に出れば遭遇する確率は零ではないということだ。しかも私、きっと村から出ることになるだろ。ロイドだし。
生涯引きこもれないに違いないという絶望的な結論を得た幼い私は、手の甲で光るエクスフィアを虚ろな眼で眺めた。
単なる村人じゃチュンチュンにすら突き殺されて死ぬだろう。厨ニ乙な三重苦を背負おうが、私はまだ死にたくない。
只でさえ普通に道を歩いていて魔物とエンカウントした挙げ句死亡、なんてふざけた死に方が冗談にならないのだ。最早、自らを鍛え上げるしか生き延びる術はない。
近い未来、世界を救う決意だとか父親に会いたいとか前向きな理由じゃない。いやそれらがまったくないわけじゃないが、つまりは大部分が生存本能に突き動かされて私は長年剣技を磨き続けたのである。
つまり如何に原作を知っていようが実際に目の当たりにするまで気にしている暇なんかなかったのが実情だった。

何が言いたいのかと言うと、


「現実が追いかけてきて辛い…」


これに尽きる。


エクスフィアを抜きにしもロイドの潜在能力は高い。多分父親の血だろう。悲しいかな、それはきっちり私にも受け継がれていたようで鬼気迫る勢いで修行を続けた結果、何がどうなってか司祭直々に神子の護衛を任される程になってしまった。驚愕であるというか原作ブレイク甚だしい。
その後は悩んでいるうちに断る間もなくあれよあれよと護衛を押し付けられ、撤回してもらえないうちにコレットと一緒に教会に呼び出され、襲撃され…。
とうとう原作突入しちゃいましたとさ!



私オワタ\(^o^)/



実は思考停止という人間として最悪の状態に陥っていた私は、「仲間外れよくない!」とごり押しで参入してきたジーニアスも含めた原作メンバーと共に半ば以上流されて旅立つことになった。
旅立ちまでの流れに自分の意志が無さすぎてどうしようと内心頭を抱えつつ、逃げ場のない現実を受け入れんがために旅の利点を考え気持ちを盛り上げてみた。え?捕らえられてるわけじゃなし、逃げればいいって?NOと言えない日本人気質舐めるなよ。日本人はな、草食動物的に足並みそろえないと生きていけないんだぞ。
あと脱退宣言してコレットを泣かすのもセイジ姉弟に非難されるのも、実父に失望されるのも真面目に勘弁してほしい。人並みに情はあるので付き合いの長いコイツら+αに人格面を指して嫌われたらハートブレイクしてギャン泣きする自信がある。
だから旅立ちも村に残るのも怖くて沈黙を選んでたのに、何もしなくても旅立つことになったんだから私は逃げられない。好意を持ちながら率先して助けるでもなく、罵倒を甘んじて卑怯者の汚名を着る覚悟すらなかったのだから仕方ないだろう。諦めと割り切りに定評のある私なので流された結果を受け入れるのも早く、まあ旅も悪いことばっかりじゃないだろうと考え直した。

何だかんだコレット死ぬの嫌だし、コレットとリフィル先生、クラトスの実力者3人が去った後に私のエクスフィアがディザイアンに見付かったら今度は私が命の危機なわけで、これを回避できるのは嬉しい。だって下手をしてジーニアスごと人間牧場に拐われたらBAD ENDじゃないですかやだー。
そう思えば旅に出た方が安全と言えば安全…………いや、どう考えてもこっちのが確実に危険か。上手くいけば世界も自分も救えるが、一歩間違えば死ぬような場面ゴロゴロしてるし。
ていうかテイルズなんて大体が敵に先手打たれ捲って追い詰められて、偶然奇跡が生まれ続けることでなんとか盛り返しつつ最後は主人公の不屈の精神がほにゃららで世界も仲間も救われる系ばっかだろ。
中身現代っ子の私は根性論と精神論が大の苦手なのだが、こんな私がロイドで大丈夫か?







――――大丈夫だ、問題ない







今どこからか何か聞こえた気がしたが、きっと気のせいに違いない。

頭が痛い。


あきゅろす。
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