破壊の因子
行き詰る調査
リンクはまず過去の文献を探すことにした。
先人は偉大だ、何か手がかりがあるかもしれない。
だがもともと頭脳よりは肉体派なため、2、3日経つうちに限界は来た。
それでなくとも仕事の合間合間しか時間がないため、リンクの疲労は溜まっている。
ゼルダも手伝ってくれてるとはいえ、作業は遅々として進んでいない。
だがその間にも天災は起こっているのだ。
『皆は驚きました。
年が経つにつれ、海が小さくなっていくのです。
今まで海底だった場所には何事もなかったかのように草木が茂り、建物が朽ちもせず平然と経っていました。
人々はその地に移り住み、暮らしていくようになりました。
風の勇者はハイラル王族の姫と共に海の中心に現れた城に住むようになりました。
ハイラルはもう魔王が現れることなく、平和に人々は暮らしていきました』
『戦争絶えぬ4国を悲しむ女神達は人間達に予言を与えた、やがて世界は漆黒の太陽に焼き払われる運命なのだと……。
4国の王は女神を信じない、予言にある災厄を払う究極の力を求め、1国はその無益な力に滅び、1国は思想なき知恵に溺れた。
結果、王達の迷いは自らを審判の間へと導くに至った、その行き場のない混沌はいたずらに恐怖と悲しみを世界にもたらした。
究極を手にしたもの、そして糧となったもの……女神は5国の王に公平且つ厳粛な審判を下したその少年に光の加護を与えた』
リンクは今読んでいた本を少し乱暴に置いた。
この本も役に立ちそうにない。
「リンク……少し休憩したらどうです?」
向かいに座っているゼルダが心配そうにリンクの顔を見る。
「でも……」
「あなたは騎士ですもの。有事の際疲れていては大変でしょう?少しは息抜きしなくては」
ゼルダにそう言われては否定のしようがない。
「……じゃあお言葉に甘えて」
リンクは大人しく席を立った。
リンクは平服で城下町にやってきた。
見た目は平民の服と変わりないが、仕立てのよさは分かってしまう。
だがリンクも城下町の人も身分のことは気にしていなかった。
それなりの敬意は払うが、皆いい人達だ。
「いらっしゃいませー!」
適当に入った店の店員を見てリンクは固まった。
「あ!リンクいらっしゃい!」
店員……ケイリはリンクを見てぱっと微笑んだ。
「さよなら」
「待ってよどこ行くの!?」
店を出ようとしたリンクの服をがしっと掴むケイリ。
「せっかく来たんだから食べてってよ!」
確かに混んでいるならともかく、何も注文せずに店を出るのは具合が悪い。
「……分かったよ」
リンクは抵抗を諦め、導かれるがまま席に着いた。
お昼の時間帯を大分過ぎているため、席に空きが目立っている。
「お薦めは?」
ずっと作業をしていたためお腹が空いていた。
「えっとね、今日は牛肉の赤ワイン煮込み」
「じゃあそれで」
「はーい」
ケイリは注文を取ると厨房に引っ込んだ。
肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。
「お待たせしました〜」
手際がいいらしく、わりとすぐに料理が出された。
「……おいしい」
牛肉に充分に味が染み込み、やわらかくなっている。
付け合せの野菜はほんのりと温かく、ドレッシングも強すぎず野菜本来の味が生かされていた。
「でしょ?これ、僕が作ったんだよ」
「そうなのか!?」
さすが料理人を自称するだけはある。
「そういえばさ、疲れてる顔してるけどなにかあったの?」
「……まぁ、な」
まさか事情を話すわけにはいかない。
「僕でよかったら力になるよ。……あ、でも魔物とは戦えないからその辺よろしく!」
びしっと片手を上げるケイリ。
その発言にリンクは脱力した。
「戦えないって……旅してたときはどうしたんだよ」
1人旅ということは、魔物や野党に襲われたときはどうしていたのだろうか。
「必死に逃げてた」
再び脱力。
「………そ……そっか………」
リンクは気付かなかった。
どうしても逃げられないときが旅をしているとあるということを。
そんな時は戦わなければならないのだ。
ケイリは逃げ切れる、または戦いを切り抜ける実力があるということを。
リンクは見逃していた。
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