番外編 壱 「店内の器物を壊すは犯罪です」
今日は休日だと言うのに店には客が来ていた。
まあ、この店の休日に訪れるお客と言えば決まっておかしな客なのだけど。

ちなみに今日のお客さんは、体に電気を纏った人外だ。
少しテンションが高い、人間の頭サイズの牝ネズミだ。まあ、今は外見は人間の女の子の姿ではあるが…。

「ひゃはははっ! やっぱり酒は美味いね〜。
 こいつには甘美と言う表現が相応しい。アルコールを含んだ飲み物とは、世界一の飲み物に違いねぇ」

呑んでいようがいまいがこのテンションだから、辺鄙な世界に飛ばされたと思うのが正しいのかも知れない。
彼も一応、玄武と同類らしいが…。正直その様には思えない。
年中出来上がっている危ない神様に "しかしまた、今日は何で来たんだい?" と失礼ながらも聞いてみる。

「ひゃっはっ! 最近また物騒な事が多いから、会議がかさむんだよー… 俺っちは真剣な話が苦手で、ストレスが溜まるんだよっ…」

確かな言い分に違いない。
普通に喋る分なら人一倍煩いのだろうが、人(人外?)に合わせる事を知らない彼には辛いのだろう。

そういえば、此処最近よく来るようになったと思う。
先日は珍しい人(?)も来たばかりだ。

「だけどよ〜 本当に最近物騒過ぎるぜ? 何でも全世界が同時にヤバい事になったらしいじゃねぇか
 あちらでは飛行機とやらが墜ちるは、こちらでは隕石が落ちるは… 何かが起きる前兆かねー…」

確かにその様な事がある。先日は全時間軸が一時的に繋がってしまい、各世界の一部に大きく影響した。
ある世界では、一部の島が飲み込まれて別の時間軸上の島と交換されたのだとかで、大変な事になった。

あれは偶然居合わせたこの世界にも関係のある魔法使いが担当したんだったかな?

「そうだ、今日はその話だったぜ! 何でもそこで死傷者が出たとかで少しバランスがおかしくなったらしい。
 各世界は、別物だが綿密に繋がっているからなぁ〜 規格外の死人が出たら、それを修正するために同一人物の存在をそれに合わせなきゃいかねぇ…」

"そいつを過去に狂わせた人間も居るがな! あひゃひゃ!" と彼は笑う。
彼としては、あまりそれ以上は話したくないのだろう。別の話ではぐらかした辺りに其れが感じられる。

当然、世界の生き物に必要以上に関与してはならないのが彼らだ。
とはいえ、自ら守る者が修正されればそれは子を失ったも同じ事なのだろう。

まあ、産んだことは無くとも、母性本能とはあるに違いない。

「おい、マスター…、滅茶苦茶口に出てるぜー!?
 つうか、今密かに俺と言うオンナを馬鹿にしたなー! 店壊すぞっ?」

言いつつ、既にパチパチ火花が飛び出している。
店を壊されては流石に困るので慌てて誤る。

最近はあの子達にあまり壊されないので、そちらに出費が掛からないから椅子一つぐらいはご愛嬌だが…。

「まあいいや… それにしても、ここはいつ来ても落ち着くな。」

端から見れば全然落ち着いていないが、本人にとってのそれはまた別の意味合いでの"落ち着く"なのだろう。
そういう客が居てくれて、自分は嬉しいが…。

何だかんだ言って、椅子を一つ焦がすのはやめて欲しいかも知れない。

「いや、別に毎回壊している訳じゃないからな!?
 前回は何も……あ、いや、ホントにごめんなさい…許して…もうしません…」

前回は棚を一つ壊されたので、お返しに彼女がトラウマになるぐらいきつめの本を書いて売りさばいた。
その売上で棚を購入し直したのは言うまでもない。

内容は…
「ばっ馬鹿っ! やめろ〜 そんなこと考えてくれるな〜!」

顔を真っ赤にして止めてくれるような物だった。
ちなみに売上の半分以上は他世界から来ている。

おかげ様で、たまに行けば嫁に行けないぐらい悲惨な目に遭うとか。
隠し撮りや痴漢は彼女に撃退出来ても、脳内妄想を受信するのまではどうしようもないらしい。

「おかげ様で他の世界では普通にしててもコスプレ扱いだっ!
 人型でも落ち着いて選べないのに、ネズミじゃ服が買えないんだぞ!?」

それなら、もっと辺鄙な場所に行けば良いんだよ。と助言しておく。
とりあえずそっち系の人がいないこの世界では、何とか人として接する事が出来るレベルだが、やはり駄目な場所もあるらしい。

とはいえ、それも限られているので…と言おうとすると、途端に彼女の覇気が無くなった。
おまけに目に涙を溜めて、今にも自己発電していまいそうな勢いだ。

「…前に、街に行ったらマンガになってた。
 その次に行ったら、アニメーションになって人形が売ってた。で、そのまた次に行ったら映画化してて、全国オンエアだ…。
 人間だけならまだしも、自然界とやらからも笑われてるんだぞ…。次に行ったら俺は一体何になってるんだ…?」

カウンターに鞄から取り出したあられもない姿の自分人形(フィギュア)を、泣きながら置く彼女が少し可愛く思えた。
いや、非常に可哀想に見えた。

其処まで流行るとは、我ながら可哀想な事をしてしまったと思った。
どうりで、あちらからの入金が最近多いと…

「だから、その世界ではどこに居ても居辛い…
 棚から牡丹餅だぜ…? …っ! …そんな目で俺を見るなっ!
 ちなみにその事で今日、一部を除いた全員から可哀想な目で見られたんだぞ!?」

棚から牡丹餅なのは間違いなく僕なんだけど、言うと彼女に可哀想なのでやめた。
その顔を見た彼女が更に怒る。

姿を替えてみてはと提案もしたが、生き物には固体事に決められた形がある故にそれは無理らしい。
体を構成しているものが電子の塊である不規則な彼女(女と言えるのかも微妙だが)でも、生き物である以上はそれには逆らえないらしく、嫌でもその姿にしかなれないのだそうだ。

「うう…忘れようと思って来たのに、完全に思い出してしまったじゃないか…
 こんなのも売られているんだぞ…」

今にも爆発しそうなまでに顔を赤らめながら、カウンターに置かれた自分人形を横によけて数冊の薄い本を並べた。
今なら路上で商売しても生きて行けるのではないだろうか。

僕が書いた小説よりも過激に脚色された漫画らしき物がそこに描かき出されていた。

しかし、よくこれだけ自分グッズを揃えて持ってきた物だ…。

「煩いっ! これは朱雀からの差し入れだぁああ…!
 恥ずかしくて外も歩けない! どうしてくれるぅ!? どうしてくれるぅ!?」

泣き喚きながら、駄々をこねられる。
彼の相変わらずさには脱帽だが…僕にはどうしようもなさげだった。

まあ、それぐらいのブームならあと二十年もたてば時の人になってしまうだろう。
それまで大人しくしていれば、大丈夫だろうよ。と慰めて置いた。

「ううう… 電気ネズミバカにすんなよ…っ
 制約が無ければ電気信号で滅茶苦茶にしてやるのに…っ」

相変わらず、可愛いと思う。
言って置いてなんだが、彼に目を付けられた以上、彼の寿命が尽きるまでそれは続くだろう。

自分グッズを散らかしたまま泣きべそを掻いて買える彼女の背中は、いつも以上に小さく見えた。


本当に何をしに来たんだろうか…?


後日、棚の端に並べられた自分人形に気付いてか気付かないでか、店に入った瞬間逃げるように彼女は走り去って行った。

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あきゅろす。
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