「よろしく」
1日だけでも泊めて貰えないかお願いすると、良く判らないけど落ち着くまで泊まって行きなさいと言ってくれた。
見かけ以上に二人はとても優しい人だった。

「とりあえず、風邪引いたら駄目だからお風呂に入ったら?
 石鹸とかは自由に使っていいから、今度は服は脱いで入ってね」

僕に対する理解度はかなり低いが、服を用意して頂けた気遣いはとてもありがたかった。
おそらく、胸あては自分の物を使う羽目になるだろうが…。

そういえば、言っていなかった事と聞いていなかった事がある。

「あの…、男性の方はおられないですよね…」

我が国の女性が絶対的に守らなくてはならない"規定"。
それには、
『結婚する男性以外に一巾纏わぬ姿を見せてはならない』
『そのまま肌に触れられる。または触れてしまった場合は、生涯その男性に妻として仕えなくてはならない』
という厳しい決まり事がある。

かわりに『10歳以下での婚約は認められない』などあるが、既に過ぎているので意味は無い。
他にも色々とあるが、注意しなければならないのは、全ての規定の前文に『この国で産まれた女は』とある事だ。

「ああ…居るけど、まだ帰って来てないから大丈夫よ〜
 覗いたり触れようとしたり半径1m以内に近付いたら、5秒以内にSATSUGAIするから安心して」

何やら恐ろしい顔をして、酷いことを言っている。
ひとまず安心して湯を借りる事にした。

服は用意しとくから、呼んでくれたら持って行くとの事だった。

「あ、その、胸元のサイズ合わなかったらごめんね…?」

さり気に痛い所を突かれた。
何故自分の周りは大きい人ばかりなのか!? もしかして、小さいのは自分だけだったりするのか!? と嘆きたかったが、貸して貰う以上何も言えなかった。

いつかは大きくなるんだと決意した。




お風呂から上がるが、服はおろか拭く物がないやら、どう呼んでいいやら判ない。ギャグではない。
このままだと、本当に風邪を引いてしまうと思ったので、とりあえず脱いだ服で前を隠して、扉をあけて優希おばさんを呼んだ。

ここで、咲妃さんを呼べば良かったのだろうが、あろうことか優希おばさんを呼んでしまったがために…
誰か知らない人が来てしまった。

「なっ…!?」

気付いて、勢いよく扉を閉める。
何を思ったのか、男は姉に対する暴言を吐きながら、閉まりきらなかった扉を力一杯引いた。

そのまま両腕をドアノブに持って行かれて、扉を引いた男に衝突する。
十分努力はしたが、まだ少し痛む右足が体を支えられる筈もなかった。

「うわっ…誰…っぐはっ! っう…まじで誰だ?」

気が動転して、とっさに名前を聞いてしまった。

「はっ、ああ…あの、あなたのお名前は…?」

夏雪と言うらしい。少し顔を赤らめてそっぽを向いて答えた。
風呂に入っているのが咲妃さんでは無い事を思い出したのか、慌てて優希おばさんが出て来た。

「ぼ、ぼ僕は、あ、あの、っ…ティレアと申しま…いいます
 そ、その…なつゆき殿、様? ふっ、ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」

何が何だか判らないと言った様子で、"とりあえず服を着てどいて欲しい。"と頼まれた。
"いま君は俺の上に裸で跨っている。"
彼に指摘されて、その状況をようやく理解する…

「そ、そそ、その…ふっ服がぁ
 うう…も、もう嫌あぁ…! 好きなようにどうにでもしてくださいい…!」

端から見たら襲われているような…いや、逆に襲っているようにも見えるかも知れない。
実際に、彼女らにはそう見えたようで、暴走を止めるに止められず、槍を首にあてがって自決しそうになるまで唖然としていた。
それ以降どうやってその場所から移動したのかとか、どうやって服を着たかは全く覚えていない。




気が付くと服を着てリビングの椅子の一つに座らされていた。
一家団欒…と言えるのか怪しい程に、非常に気まずい雰囲気が部屋に漂っている。

机を一周見渡す。

咲妃さんその右隣に優希おばさん、対面して僕…

「ひっ…」

ゴミが鎮座している…
いや、息をして…息してる?
ゴミ? ゴミなの? 人じゃないの?

「すみませんでした…。どう考えても内に姉さんと母さん以外の女性が居るとは…。」

「しゃ、喋った!?」

ゴミではなくよく見ると人だった。というか人でないほうがおかしい。
ゴミが息をするはずないし、人間の言葉を喋る事はない。

いままで一言も会話しなかった二人が喋り出す。

「はあ…。あんたもついに犯罪者ね…。
 多少強すぎて相手を殴り飛ばすのは許して来たけど、12・3歳の女の子と夫婦だなんて…。
 さすがは父さんの息子ね…。」

「父さんは私が18の時だから全く正常よ。
 ロリコンだったのは認めるけど、出会った女の子にいきなり騎乗位を要求したりはしなかったわ。
 あの人はバックが好きだから。」

いや、聞いてないからと言う三人の言葉が飛び交った。
あらやだ聞こえてたの? と本人は言う。
ばっちり聞こえてましたとも。と、三人ともが目と首で訴える。

もう一度、あらやだと言ってから彼女は話を元に戻した。

「とりあえず必ず責任は取らせるから、この国の法が許すときまで待ってね…?
 自暴自棄になって自決したら駄目よ?
 で、あんたはそうならないようにちゃんとしっかりすること。はい、サイン」

何やら細長い厚紙に文字が書かれた物にサインを書かされる。
書き終わり、優希おばさんに渡そうとすると、厚紙はそのまま隣へ回された。
なつゆき殿、いや、なつゆきさんがそれにサインをする。
何故か無性に恥ずかしくなってきた。

「…あ、あの、ぼ、僕「僕は禁止ね〜」えぇ…!?」

何か話を切り出そうとして止めがはいる。
物凄く楽しそうに厚紙の二行目あたりを指差す優希おばさん。

「ティレアは"あたし"もしくは"わたし"や"わたくし"などの男の子専用以外の一人称でしゃべること…っ
 ひ、ひどいです…無効にしてくむぐぐ!」

厚紙を奪おうとすると、口と腕を塞がれてそれを遠ざけられる。
"規定"に従うのなら、これにも従えるはず。ていうか元から顔に合わないと思ってたのよ。
どちらかというと、体型に…ゴホン。と言われてしまう。
「ぼ…っ、あたしは…その、確かに体型等に到らない点も有りますが、よろしくお願いします。」

頑張った…。頑張りすぎて余計な事まで言わされてしまった気がするけど、気にしない事が一番だろう。
満円の笑みで優希おばさんは笑う。

「よろしい、こちらこそ宜しくね!
 あと"おばさん"も禁止だから。次に言ったらあなたのち…」

そこで、咲妃さんとなつゆきさんに取り押さえられる。手が恐ろしい動きをしていたが、大方止められた理由は判った気がする…。
こうして謎の規定など色々問題はありながらも、あたしはこの世界で暮らすことになった。
…彼に一生を捧げる為に。


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