現れる歯車
機械は兎も角、騎士達に見つからないように姿を隠したまま王都を出た。
もしも、禁忌に触れてしまったのが見つかったら自分の身が危ないからだ。
例え"あれ"の進行を防げたとしても、その極刑を防ぐ事は出来るまい。

「はぁ…幸か不幸か手元にある禁書はこれだしね…」

ローブの内側。腰の魔本封じに入れた封印の禁書を確認する。
生粋の魔法使いの自分は今まで入れたことなど無かったので、少し違和感はあるが付けていて良かったと今更ながら思う。

「しかし、これ、禁書にも機能するんだね…」

元々、キツい契約は交わして居ないものの、普通に所持しているだけでも相当な魔力が奪われる代物だ。
それが今は全く無いのだから、間違いなくこの魔本封じは本物なのだろう。

絨毯に乗り目的の地に着くまでの間、それに対して褒め称えた。




闇と光の街の間に通る街道。
普段は子供達が遊ぶ賑やかな街道だが、今は機械が所狭しと並んでいる。
やはり始めの目撃地と思われるその場所には、横に裂けるように空間の歪みが生じていた。

作る側である自分にはそれの異質さが、はっきりと判った。あの向こう側には、こことは全く別の世界が広がっているのだろう。

そして、幾中にも絡まった機械の山は差し詰めそれの番人と言うことだろうか。

「やっぱり最後は簡単には行かないと…」

鼠型の機械なら難なくクリア出来たかも知れないが、首が八つもある蛇とは…。
恐らくだが、八つ共に別の属性を持っていると考えて良いだろう。

鼠と比べると、幾らか動物らしい肉が付いているのが急所だろうか。
姿を確認される前に空間を閉じようと考えたが、見えているのかそれは攻撃を開始した。


一本目の首が火を吹いたのを絨毯で飛びながら避ける
二本目の首が落とした雷を対抗呪文で打ち消す
三本目の首が水を吹き出し、四本目の首がそれを凍らせて動きを封じようとする
それを五本目の首にぶつけて相殺した
執拗に追い掛けてくる六本目の首を七本目と八本目に結びつける

動く事の出来る四本の首が迫って来るが、その内の一本の脳天に槍を叩き壊すと少し怯んだ。
その隙に詠唱を済ませる。

「アビスフレイム――!」

毒を含んだ黒煙が動物の肉で形成されている二本の首の目に当たった。
みるみるうちに腐敗していき、ついに活動している首は一本となった。

が、今度は大蛇の逆襲が始まった。絡まった首を自ら引きちぎり、二本を自由にし、一斉に攻撃を仕掛けてきた。
三種の攻撃を上手く交わし、大勢を整えた所に今まで飾りかと思っていた尻尾が絨毯を弾いた。

拍子でバランスを完全に失い、絨毯から落ちた所を長い尻尾に上半身を絡め取られた。

「あぐっ!」

そのまま絞め殺す気なのか、どんどん力が強くなって行く。
視界がぼやけて来て、ここで死んでしまうのかと諦めかけた時に締め付けが止まった。

何を考えているのか、ぼやけた視界で三本の首は舌を伸ばして僕を舐め始めた。

「ひっ…! や、やめて!」

瞬く間に全身唾液でぼとぼとにさせられ、終わると三本中一本が大口を開けた。
絞殺から生贄に変更されてしまったようだ。

今度こそ、死ぬと直感したとき、目の前の蛇の頭が突然崩壊した。

《ギュィイイ!!!》

今まで気にも止めていなかった蛇の叫び声が頭に響く。
徐々に覚醒する頭で、ようやくそれが自分の身長の倍程ある長い槍だと把握出来た。
ついでに、

「こんなに倒しがいのありそうなのを1人で倒そうなんて、十年は早いんじゃない? ティレア?」
妹と、

「それは私のセリフよ。リフィア…。そもそも、あなたはティレアと同い年でしょうが!」

セラと、

「姉さん。私の台詞が有りませんが?
 突っ込みを入れておくと、同じぐらいの歳で姉さんは血の海を平気で歩いて居ましたが。」

母の、うるさい三人組の姿も確認出来た。
気付いた時には尻尾を断ち切った槍に乗せられ、三人のもとに運ばれていた。


「『あとで覚えときなさいよ』」


言い訳するまえに凄まれてしまった。
若干ふらつく体を妹に支えられながら立ちあがる。

後、僕に出来るのはこれ以上機械が出て来ないように"封印"するだけだ。
蛇を二人に任せて契約を解いた。




「禁書、絶対封印の書――
 《アブソリュート シィル》発動―――
 全項目の使用を許可。我が持ち得る魔力の総てを用いて対象を封印する
 対象…、」

妹の手から離れて、自分の脚で裂け目まで辿り着く。
よろめく僕に近付こうとする妹との間に境界線を敷く。

「我が体を中心にして、0.5m^2固定。
 対象は我を含めて2つ。その他の侵入は認めず。」
多分、もう会えないだろうと判っていながらも、こうする他に手は無かった。
"ここにいれば禁書に手を出して処刑された姉"を持つ妹としての肩書きを背負わせなければならない。
母も同じ苦しみを背負う羽目になるだろう。

いま僕が居なくなれば、それを知っているのは僕1人だけになる。

そうすれば、彼女等は身勝手な姉(子)を失ったただの人だ。

「――記憶の封印
 対象、目前の巨大建造物を中心にπ*500kmの人間
 我の存在がこの世界に無くなったのを同時に実行」

最後に一番気掛かりなことを、彼女等に頼む事にした。
少し自分勝手な気もするが、此処まで来たら引けない。
水が溢れて足場が悪く成ってきている。次の機械が現れる前に言ってしまう。

「姉さんは会って一週間も経ってませんが、多分判ってくれると思います。お母さん共々、リフィアをよろしくお願いします。
 リフィア。二人をよろしくね―――――」

言い切って直ぐに封印が実行されたので、聞こえたかは判らないが、きっと届いた。
本当は色々と誤りたかったけれど、そんな別れ方よりは良かっただろうと思った。

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あきゅろす。
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