巨大な影
久しぶりにこの国に帰ってくると、殆どの人間が祭の話しで持ち切りだった。
あれから11年。いや、12年程経ったのだろうか。
風の噂では妹があの大臣の息子と結婚したという。その娘が、あの時の私達と同じ歳となるぐらい年月が過ぎていた。

「そういえば、さ…」

不意に祭の話しから別の噂に変わった。
わたしはその声に静かに耳を傾けた。

「あの話し知ってる?
 次の祭の術師が一人欠員してるって。」

どうやら、それは国境の結界あたりで起きた話しらしい。
どうもその師が結界近くの街道で巨大な獣に襲われたという事だった。

この12年。幾多の街や国や大地を旅したが、そんなに大きな生き物はこの世界で見掛けなかった。

「それがね、毛むくじゃらで長い爪を持った生き物何だってー」

ましてや、毛の生えた爪の長い生き物など、人間以外には想像できない。
絶対居ないとは断言出来ないが、気になる話しではあった。

平民服の上からローブという姿で街中をうろついていると、騎士に声を掛けられてしまった。

「おい、そこの君。この国の者か?」

我ながら警戒体制が引かれていることを予知して居なかったのを馬鹿らしく思った。
抵抗する気がない事を示し、詰め所まで後ろ手に連れていかれた。

「久しぶりに見たと思ったら、またこんな所に連てこられて…
 狙ってるのか?」

詰め所の入口まで来ると、遠征でもやっていたのか兵卒の先頭に立つソルが声を掛けて来た。
相変わらず怒ってるのか真顔なのか判らない男がそこにいた。

わたしの後ろで紐を引く騎士は、それを聞いて少したじろぐ。

「隊長のお知り合いで?」

ソルが、微妙に嫌な顔をして頷いた。
あの騒動を思い出してしまったのだろうか。
騎士はそれを見ると、慌てて縄を解いた。

手が自由になり、僅かながら礼儀のつもりで羽織っていたローブを脱いだ。

「お久しぶりです。その節はどうも。
 ソルに調度聞きたい事があるのですが、宜しいですか?」

彼を呼び捨てにすると、兵士が一斉にこちらに目を向けて殺気を放ったので驚いた。
彼は何食わぬ顔でそれに手で命令をくだした。

「何を聞きたいのかは大体予想は付くが、それには一つ条件がある。
 あまり身分的にとやかく言える立場でもないが、今はそいつのせいで取り込み中なんだ。
 あの時の罪滅ぼしとでも思って引き受けてくれ。」

彼の部下が少し目を丸くしていたが、彼は気にせずに話しを進めた。
何れはそうしようと思っていたので、こちらも好都合だった。

「ふむ。ならいい。
 ついて来るといい。その話しを聞いて差し上げよう。」

連の兵士の一人に耳打ちして彼は詰め所の中に入って行く。
わたしは両脇にさっと移動した兵と目を一切合わせられなかった。

彼氏を奪われたホモな人かと、酷い勘違いをするぐらい凄まじい殺気を全身に受けたから。




で、大会に出ることになった。と姉さんは言った。
ちなみに話しの途中で"叔母さん"と言ってしまい、"お姉さん"と呼ぶ事を強制させられたのはまた別の話し

「でもあんまり詳しい話しは聞けなかった。
 あ、今のと、これからする話しは伯爵には内緒ね。
 あの人、人はいいけど怒ると怖いから。」

つまり、それの捜索をわたしとして欲しいのだと言うことだった。
代表術師として選ばれる程の人材を先頭不能にした生き物に挑むのは少し気が引けたが、彼女が大丈夫だと言うのならきっと大丈夫なのだろうと思い承諾した。

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あきゅろす。
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