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蛇に睨まれたように縮こまった私は、こちらをじっと見つめる信玄公の瞳を臆しながらも見つめ返した。

腕を組んだまま難しい顔を浮かべていた信玄公が、急にその鋭さを消して微笑むと佐助に向かって声を発する。


「ふむ………佐助に任せる!」
「了解です。」


最初に感じていた怖さが、たった一度の笑みで消えたのに凄く驚いた。
今の信玄公を見ても、怖くない。

むしろ、どんな事も受け入れそうな懐の深いオッサンに見える。
部外者であろう私を受け入れる旨を豪快に決める恰幅の良さは、頼りになる大将っぷりの象徴。

晴れて私の居候が決まったらしいが、どうやら責任者は佐助になるようだ。

ま、そんな事を聞いて内心穏やかな訳がないよね。
喋ってはいけないと言われた事は律儀に守りつつ、血走る寸前に目を見開いて佐助を振り返った。


(ま、待って待って!そんな怖い顔しないで!)

(誰があんたの良いように働かされるか!!)


私と佐助の間で交わされる無言の会話を感じたのか、言葉を聞いていないはずの信玄公が豪快に笑った。

おお、でもやっぱり熊っぽいな……


「面白い!佐助が慣れるのも無理はないか!」

「大将!余計な事言わないで下さいよ!」


ぼわっと赤くなった佐助が、会って初めて聞くような余裕のない焦りを表した。

意外にも可愛らしい彼の姿は笑いを堪えるのが辛いレベル。
もう噴いた。無理、耐えらんない……!

生き恥を曝しもう居られない、と言わんばかりに私の紐を引っ張るから、それに仕方なく従ってそそくさと退出する。

さっきからやり込まれ続けていた仕返しにもなったわ。
可笑しくて堪らず、障子から離れた途端に笑い出してしまった。


「さ、佐助顔っ、真っ赤……!あははは!」
「もうなんなの!……あ、旦那んトコにも行かなきゃ……」

「旦那?」


大将、は信玄公。
新しく口から紡がれた『旦那』とはいかなる人であるというのだろうか。


「旦那って……信玄公みたいな人?」

「んー……ある意味、でね……」


急に遠い目をした佐助。
旦那とはそんなにどうしようもない人物な訳?

心配しかけた所で、今私が置かれた状況を思い出した。


「いい加減この縄解いてもらっちゃ駄目なのかなー」
「……あー、旦那は結構熱い人なんだよね。」

「佐助、縄……」
「だからちょっとなまえちゃんには変な人に映るかもしれないけど、気にしちゃ駄目だよ。」


にっこり笑いかけてくる佐助には、黒い影が滲んでいた。

あれ?この笑顔は何処かで……
さっきの仕返しだと言わんばかりの対応に、私はぐぬぬ、と歯を噛むばかり。

やっぱりコイツは食えない、と、精一杯の拗ねを込めて睨んでやった。





 

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