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赤い凧はかすがさんの凧と同じ造りで、この男もまた同じように私を乗せた。
凧の前方に胡座をかいた彼は後ろを向いたまま、精一杯警戒している私に軽く話題を振ってくる。
その胡散臭さ、どうも信用出来ないんだよな……
「でさー、かすががあんなに必死になるもんだからついつい連れて来ちゃったけど……、あんた、何者?」
「〜っっ……!」
「そんなに警戒しなくていいじゃない……酷くは扱わないよ、多分。」
今度は彼がにっこり笑った。
完全に黒い影が落ちていて、『反抗は許さない』オーラが滲んでいる。
なんだコイツ……怖い奴だな……
「なんか……不思議な恰好してるし……。名前は?越後の子?」
「……名前は……みょうじ、なまえ……。ここ、何処?あんた誰?……っていうか、この森の多さ何なの!?私のいた所に帰してよばかばかばかばかああぁぁあ!!!」
元々我慢弱い私の限界は急に訪れた。
丁寧にしていた言葉遣いだってぐだぐたに崩れて、今までの不安からか涙まで。
かすがさんが女性だったからあった安心も、もはや無くなったし。
うー、と唸れば突然の豹変に余程驚いたのか、眉をへの字にした男が寄ってくる。
「わーっ!泣かないで!ま、まず何から説明すればいい?!」
「名前………教えてよ。」
ぐすん、と鼻をすすって俯いてみた。
……どうやらコイツはこの手に弱いらしい。
猿飛 佐助と名乗ると、ここは上杉謙信の治める越後で、自分は甲斐の国に仕えていると言う。
その言葉にフリーズした。
だって、
「甲斐とか越後とか……旧県名じゃん……!」
「県名?なにそれ?」
その反応が拍車を掛けた。
完全に此処はもといた世界ではないと悟らされる。
簡単に言えばタイムスリップ?
は?なにそれ夢オチ?
言葉を失い、涙さえ止まった私を不思議そうに彼は見つめた。
「いや、これは夢でしょ、そうよ夢よ……そうなのよ。」
「……?」
「過去に来たとか!無いから!!」
二人して凧の上で固まった。
ちょっと経ってから馬鹿な事を口走ったと思ったが、どうやら彼はそうは思わなかったらしい。
顎に手をあてて真剣に考え込んだ後に、うちの所においで、と言った。
「未来から来たならその奇抜さも納得出来るっちゃあ出来るけど……」
他に何か知ってる事が有るかもしれない。
そう言って、彼は手を差し出してくる。
傅いて手を取るような体勢に、躊躇いながらもゆっくりと手を乗せた。
保護してくれるなら、今それに縋らない訳にいかない。
「交渉成立!」
「えっ……!?」
手を乗せた途端に強く握られ、奴はそのまま凧から飛び降りた。
またか!?
そう身構えたものの、今度は落下感が少なくて、ぎゅっとつぶった目を恐る恐る開いてみる。
そうしたら、私を片腕で抱えた奴が、もう一方の片手で大きな鳥にぶら下がっていた。
私の視線に気付いたのか、佐助は微笑む。
「この子、クロちゃんって言うんだ。さっきなまえちゃんを助けたのもクロちゃんだよー。」
「あー、そーなんですかー………」
反応に困る。何の話だよ。
苦笑いを浮かべたけれど、次の瞬間足元に広がった城に息を呑んだ。
城下が栄えている様子が見て取れる。
「此処……?」
「武田信玄公……俺達の大将の城だね。」
今日から君の住む所だよ、なんて言われても、実感なんて湧かなかった。
(めっちゃ時代劇だわ、うん。)
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