3 「ひぃいいいっっ……!」 「さっきから煩いぞ!……ちょっと黙れ……っ!」 空中に紐も無く浮く凧の上に乗せられた私は、腰を抜かして騒ぎ立てる始末。 だってそれもそう。 ぐらぐら揺れる凧の浮くのは本当に高い空。落ちたら終わり。 情けない悲鳴も漏れるのは当たり前だと思って欲しい。 っていうかそれが常識でしょう!? それにまたもや激しくつっこまれたが、今回は違った。 かすがさんは急に真剣な顔になると物騒な物を取り出して構える。 その目は、あの時私に向かって来た表情よりもさらに険しい。 「伏せるか、縮こまれ……っ!」 「う、うんっ……」 器用に凧の上に立ったかすがさんは、前方を直も険しく見つめているのだが、伏せた私にはその視線の先が見えない。 敵襲だったなら、私がいる事は彼女に大きな負担になる。 出会ったばかりの人間をリスクを背負って守る人なんていないだろう。 (……怖……) ぎゅ、と目をつぶった時、私の耳に入った声はあまりにも気が抜けていた。 「あれー?かすがちゃんじゃない?どしたの、こんなとこで?」 「それはこっちの台詞だ!貴様、上杉領から出ていけ……!」 なんとも緩い声に反してかすがさんの声は厳しく響く。 手にした武器を投げ付けるも、どうやら避けられたらしい。 チッ、と舌打ちの音がした。 「今日は伊達んトコに用事。上杉は通り道だよ。」 「馬鹿か!回り道だろうが……!」 「はは、やっぱり分かる?」 ヒュン、と音がして、かすがさんがよろめいた。 きっと投げ付けられた武器を避けたんだ。 その弾みに足場が揺らぐ。 いつもの感覚なら、何事もなかったのだろうに。 「まずい……っ!」 「落ちる……!」 今回は私が乗っていた所為だと、理由は明確だった。 バランスを崩した凧は風に煽られて完全にひっくり返り、私は空に投げ出された。 焦って伸ばされたかすがさんの手は数cm届かず、虚しくも私は落下体勢に入る。 投げ出された時の一瞬の浮遊感、そして重力に引っ張られる感覚。 (……さよなら私の人生) 上空の白い凧がこちらに向かって来てくれていたのも見えていたけど、私は死を覚悟する。 その瞬間だった。 「おっとぉ、救出完了ー。」 ぐいっ、と襟首のあたりを何かに掴まれ、急に落ちていたスピードが落ちた。 同時に首も締まる訳で。 蛙が鳴くような音は誰にも聞こえなかっただろうか。やだもう恥ずかしい。 「こんな子乗せてたの?そりゃあひっくり返る訳だね。」 宙に浮いたまま止まる、という不思議な状態のまま、私は一人の男の人の前におかれていた。 迷彩服と鉢金が特徴的な彼は、ぱちん、と指を鳴らすと私をこちらに寄せる。 赤い凧の上についた、と思った瞬間、首の拘束が消えて凧に落下する。 「隠してた、って事になるよね?」 「その娘に近付くな!!」 ずい、と寄ってきた、このいけ好かない男との距離が1メートル程になったとき、怒号とともに一本の武器が飛んできた。 その武器は正確に男の人に向かって投げられていたが、それを手で握り止めてしまう。 揚げ句に彼は楽しそうに笑って、私を矢面に立たせた。 「怖い怖い!……でも、あんまり危なっかしいの投げると、この子に当たっちまうぜ?」 「くっ……!下衆め……!」 「なんとでも!」 ぶわぁっ、と風が吹いて、赤い凧は瞬く間に移動する。 かすがさんの乗った白い凧は、もはや追えない位置になった。 ……つまり、私はまたもや拉致られたのだ。 この迷彩によって。 [*前へ][次へ#] |