掠われる。 「ん〜……っっ!」 楽しみにしていたお笑い番組の再放送を満喫してから、私は大きく伸びをした。 現在時刻PM03:56 真っ当な人間であれば、学校なり仕事なりバイトなりに打ち込んでいる時間である。 しかしそこはスルーしたいね。 何故かって? もちろん私がニートといわれる種族であるからである訳で。 「ぅー……、夕飯の買い出し行かなきゃぁぁ……」 ズルズルと這うように玄関に行くと、壁にもたれながら気怠く立ち上がった。 横着にチェーンを外し、踵をすっかり履き潰したミュールにすぱん、と足を入れる。 もう一度大きく伸びて、買い物カゴをぶら下げたまま後ろ手にドアを閉める。 ばたん。音で戸締まりかくにーん、と。 「さて、今日は特売品何だったかな……」 カゴの中にあるメモを取り出すと、むむぅ、とにらめっこ。 そこには大きく『ねぎとごぼう!』の文字が。 「買うの忘れてたけど……いーや、別に。」 くるん、とその場で一回転して、スカートの裾をふわりと膨らませた。 ニートとは言え一端の女子。 ほわほわの可愛らしい薄紫の部屋着はお気に入り。 ひらひらと揺らしながら、ミュールのぺたぺたという音を鳴らして歩く。 私の住むアパートは小高い山の上。 下のスーパー、コンビニその他諸々は中腹の林道を越えねば辿り着かない。 この難関、その林は折り紙付きの危なさを誇っていて、変質者の出現率は随一。 ま、神経の図太さがウリの私には全くもって関係ない話ではあるんだけどね。 なんて悠長に歩いていた。 だがその類のものは、 突如として現れるものである、というのを忘れてたよ。 「っっ……!」 「あ、変質者……!」 「騒ぐな……っ!」 がさがさっ、と音がした方向。 視線の先の木から飛び出してきたのは、なんと女の人だった。 怪我をしているような、何かに追われているような…… とりあえず肩で息をして焦っているのだが、彼女の服装を凝視するより他の行動が出来なかった。 ラインぎりぎりの際どい密着型の服に身を包んだ彼女に、思わず固まる。 (金髪の綺麗なお姉さんなのに、まさかの露出狂か……!) と怯んだ隙に、物凄く怖い目をしたお姉さんは有り得ない早さで迫っていた。 悲鳴をあげる暇さえなし。 首の後ろに走った衝撃のあと、視界が歪んで、消える。 私が覚えているのはそこまで。 [次へ#] |