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……現代とは比べものにならなかった。

鬱蒼とした裏山。
様々な草木に覆われた綺麗な土地で、草を摘んでは瓶に収める作業を繰り返す。
その種類も量も、自分の期待と想像を良い方に裏切ってくれた。

見たことがない品種、はたまた珍しい品種。
わんさかと辺りに生えるものが、現代には希少とされるものばかり。
(此処なら発作用の薬、完璧に作れるわ)

夢中になりすぎた私に回りが見えていたはずもなく、辺りがオレンジ色に染まったのに気が付いて漸く手を止める始末。

だけど佐助に言われた夕餉までには帰らなくちゃ、と立ち上がった途端、辺りに突然音が響いた。


……これは、法螺貝??


そしてその直後、雄叫びとも怒号ともとれる大人数の声が、森にこだました。

何か起こっているのは明白。
そして距離も近い。
これは多分、戦というもので……


「もしかして、私のいるとこ……危険?」


私は一般人。
空を飛んだ佐助や筋骨隆々のお館様とは違う。
かさ、と草むらに屈み込んで様子を伺おうと思ったら、程なく何人かが走り込んで来た。
その速さはきっと忍者。そしてヒラリと見えた紫色の装束。

今まで会った限り、幸村やお館様の格好が赤い色で、佐助達が緑色に統一されていた事を思い出して顔をしかめる。
これはもしかしなくても……

(……敵…)

「其所に誰かいるのですか?」
「……!」


ああ、やばい。見付かった?!

掛かった声は聞いたことがなくて、だけど変に優しくて焦った。
捕まって捕虜だった身、城内でも私と親交のなかった味方の可能性もあるだろうかと思ってしまう。

葉音一つ立てないように息を潜め、じっとしていたのに、それは突如として起きた。


「鼠を探すのはあまり好かないのですがねぇ……」

「ひっ……ぃ…!!」


私の横を切り裂いた斬撃が、草を一気に無くしていく。
涙目で見た先の白い長髪は酷く楽しそうに笑っていたけれど、血に塗れた尋常ならざる奴の風体に私の喉は引き攣った。

さらに見えた彼の手元。
垂れ下がる長い黒髪。


……生首!!


気付けば悲鳴をあげていて、すっかり腰も抜けていた。
開閉する口の中が、とんでもないスピードで渇くのを自分でも自覚できる。

やばい、これは、やばい、


「おや……物も言えませんか?」


ゆらり近付いた白髪は、その手の内の生首をこちらに投げて寄越す、という暴挙に出やがった。
ゴロゴロと転がり、ピタリとこちらに顔を向けて止まったその顔。

その顔に……見覚えがあって。


「侍、医さ……!」
「おや、残念。中将くらいかと思っていたのですが。」


瞳を開いたまま絶命し胴体と別れを告げたその人物は、今朝まで確かに……確かに自室で薬を作っていた人。

『何も知らない』
もしかしてそれは戦のこと?と今更ながらに合点がいった。
けどもう遅い。彼には何も聞こえない。


「その着物……武田の侍女ですか?」
「……っ、」
「答えない。この首と同じになりたいと受け取りますよ。」
「!……は、い……。」


伸ばされた鎌の切っ先を押し当てられて声も出ないのに。
答えなければ殺される、無理に出した声はからからに掠れていた。

呑気だった自分は何処へ?
戦国の世は無法。明日知れぬ身。
命が風前の灯になるという初体験は、私の意識を削るのに十分だったらしい。


「なら伝 ておき さい。私  帰 ま 、と… ……」



最後まで途切れ途切れに聞きながら、私は気を失った。








−−新生活は戦国式

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あきゅろす。
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