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新生活は戦国式





佐助の後を追っていき、着いた先は一つの部屋。
障子を開けながら奴はニッコリ笑った。


「ここ、なまえちゃんの部屋に使ってね。」


そこに入るように促して私を先に入れさせると、後ろからそう言う。

部屋の広さは八畳ちょっとで、前に私が住んでいた四畳半とは大違い。
まぁ約二倍だ。
使われていなかった部屋なのか、掃除がしてあるのに殆ど何も置かれていない部屋は殺風景。
唯一有るのは鏡台だけだ。


「あ、ちなみに隣は俺様の部屋だから。」

「……。」
「え、何?その無言……!せめて何か反応して……?!」


微笑みながら要らない情報をのせてきた佐助をスルーすると、やっぱり彼はあわあわと忙しく反応してくれた。

無理にボケると痛い目を見るって、分かっちゃいないね、佐助よ。


「まっ、まぁそれは置いといて、此処好きに使っていいからね!破壊とか、そういうのは無しだけど。」


布団はそこの押し入れ、机も押し入れの下の段に入ってるから。
そんな佐助のお母さんのような細かい部屋の説明を聞いているうちに、慣れた感覚が、私を襲っていた。


……息が苦しい。


「ひゅっ…く…すり……っ」

「ーで、鏡台の引き出しに硯と墨がある………っ!?なまえちゃん!!?」


息苦しさに立っていられなくて膝をついたら、血相変えた佐助が寄って抱き支える。


「ば……バック……くっ、私の……、買い物カゴ……」
「ばっく?……籠?!なまえちゃん、籠なんて持って無かったよ?!」

「あ、ーっ……くる、しっ」


いつもなら引きずってでもカバンを手にして、薬を飲み終えているのに!
カバンは落としてしまったんだ、と苦しさの中でどこか冷静な自分が言う。

佐助になんか、
と思う余裕すらなくて、奴の胸元の布をぐっと握った。


「い、医務室……!侍医さん……!!」


酷く慌てた佐助は私を姫抱きに抱えると、つむじ風を起こして瞬時に身を飛ばした。

くそ、なんで姫抱きなんだよ!





**********************






「………った、助かった……」


簡素な布団で目を覚ましたら、すぐ横には髪を一まとめにした男の人がいた。
彼が私を見た途端に、発したのが上の言葉。

おいおい、それどーゆー事?


「何か持病を持っていらっしゃるようでしたので……焦りました、大丈夫ですか?」
「え、あ、まぁ、一応……。」

「あ、ご安心下さい。某は武田軍直属の侍医でございます。」


見慣れない人なのに、気軽とは言わずとも眉を下げて病状を聞くので多少ぎこちなく返事をしてみる。
見慣れない、とは言っても、この状況からしてこの人は医者に違いないんだろうけど。

どうやらぎこちなさが警戒と取られてしまったらしい。
彼は頼りなげに笑って少し大きめな声で佐助様!と叫んだ。


「……もぉ……死んじゃったかと思ったよ!」

「誰がアンタに抱えられて死ぬか。」
「ひど!鬼!まだ会って一日も経ってないのに!!」


声に反応して屋根裏から顔を覗かせた佐助に悪態。
初対面の人間に馴れ馴れしく話しかけたのはあんたの方だろ!
とまくそうと思ったのをすんでで止めた。

何故って、隣の侍医さんがあまりにもガクブルしていたから。
そりゃあもう、小動物みたいに。




 

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あきゅろす。
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