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鳩尾へのダメージを食らったからか、佐助は若干下手に出るようになった。
ま、そんな事は気にしないっていうかむしろ好都合?
第一印象のおちゃらけた感じより、旦那なる人とのやり取りから佐助の苦労度合いが伺える。
……つまりは立場が上になればこっちのもの、なタイプ。
「……なまえちゃん、ニヤけてるよ……」
「え?あー、何でもない。」
「どうしてこの状況でニヤけるのさ。」
「秘密!」
おっと、知らない間にニヤけていたらしい。
長年のニート生活。
自己生活の負担を軽くする鴨を見付ける事はこの上ない喜びだった。
それをまさか鴨本人に話す訳にはいかないから、飛び切り最上級の笑顔で答えると不満げな佐助の顔。
「……ま、いいや。取りあえず縄解くからね。」
するんと解けた縄を手早く懐に仕舞った佐助は、もはや私を統制しようとする意思がないようだった。
一歩前を歩く佐助は何処かうなだれたような…
そんな彼の後を追ったら、一つの部屋の前で止まった。
「此処が旦那の部屋。……ん、中にいるみたいだから行くよ。」
信玄公の時とは打って変わって割とライトに障子を開けると、そこにはさっきの青年がいた。
…何やら柱に突っ伏してるのは突っ込んだ方がいいのかしら。
「ちょ、旦那何やってんの。」
「うぅ……破廉恥ぃぃ……。」
「……ってゆーか旦那ー。人の話は最後まで聞いてよね。」
「む、むむぅ……すまぬ……。」
あれ、佐助の笑顔が怖い。
それを旦那さんも察したのか、柱から頭を外し、こちらを向いて正座する。
しかし何故か、その視線は所在無さげにふらふらとさ迷っていた。
「……して、その、あの……」
ちらちらと私の方を見てはフラリと視線が外れ、俯いたと思ったら今度は佐助に眉を下げた顔を向ける。
なんとも可愛らしい行動を見せるもんだ。
廊下で疾走した挙げ句佐助を殴り飛ばした子だとは思えないよ?
漸く話を聞く体制に入ったと判断したのか、佐助は信玄公に告げた事とほぼ同じ意味の事を、もっと分かりやすく、それこそ小学生にでも言うようにかみ砕いて説明する。
「そ、そうであったか。無礼をした、すまぬ、なまえ殿。某は真田幸村と申す!」
「あ、よ、よろしく!」
急ににぱー、と元気良くこちらに向き直った彼に少し驚いた。
さっきまでは目も合わせられなかったのに、何故だろう……
とか、疑問に思う間もなく、幸村は勢い良く話始めたのでちょっとビックリ。
「もうお館様には会われたのであろう!?お館様は素晴らしい猛者でござる!やはりあの……(云々かんぬん……)」
「ゆっ……幸村は信玄公が大好きなんだね……?」
「無論!某もお館様と並ぶべく日々鍛練をををを!!!」
熱い。
熱すぎる!
松岡も真っ青な程に熱いこの青年は、私がさりげに呼び捨てにしたのさえ気付いていないようだった。
余りの熱血ぶりに若干口元が引き攣りかける。
お館様ああぁぁ!!と叫ぶ幸村を見つめる私に、佐助が耳打ち。
「……なまえちゃん、旦那は呼び捨てでも気にしないけど、間違っても大将の事は呼び捨てにしないでね……」
「あっ、やっぱりそんな感じ……?」
「まぁ、旦那は大丈夫だけどね。さて……この状態の旦那、止まんないから次行くよ。」
ぐ、と手首を掴む佐助は気遣い0。
痺れた足を縺らせながら、私は幸村の部屋から退出した。
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