Dreeeeeam! 大坂の空は(3家康) ……私を拾ってくれた父様…秀吉様から頂いた、世の中を渡るための大切な名前がある。 女の子の私を疎まず、それを隠して跡継ぎとする為にと…父様は色々、私に教えてくれた。 結局、私が本名を教えたのは5人だけだったのだけれど。 幼い頃から共にいた秀吉様と半兵衛様。 年頃だった時、年が近かった三成と家康。 時が経ってから、幸村。 「なまえ、お前はこの本当の名を……大切な者だけに呼ばせよ。」 「大切なひと?んと…父様と、母様と…」 「なまえ、いい加減僕を母様と呼ばないでくれないか……。」 「だって、父様が良いっていうもん。」 「秀吉!」「良いではないか、半兵衛。」 父様の肩に乗せられたまま、そんなやり取りがあったな…。 母様は、こうやって嫌がりながらも私を大切にしてくれた。 「秀吉様の御子息をそのように呼ぶなど……!」 「いいの、なまえって呼んで?私は女の子なんだから、その方が嬉しい。」 「なまえか、可愛らしい名前だな!」 「いっ、家康ぅぅうう!!無礼を働くなああああ!!」 そう、喧嘩が絶えなかった。 だけど二人の間でそのやりとりを見ていたら、不思議と笑う事が出来た。 「な、な、な!女子だっ、だっ?!?」 家康と三成が対立した後、三成側に残った私を見て……初めて言う前に彼は気付いた。真っ赤になっていたのが懐かしい。 ………駄目だ。今この姿で……『豊臣 秀頼』として泣く訳にいかないんだ。 潤んだ瞳を篭手の布端で拭いながら、ぐっと右手の刀を握った。 この5人は、ただ一人を残して皆死んだ。 父様、母様……三成、幸村。 みんなみんな……家康が、家康が…… 「……なまえ」 「っ、やめろ、私をその名で呼ぶな…!」 目の前の男が、静かに私の名前を呼ぶ。 金色にまばゆい。 明るい陽射し、太陽の…… 父様と三成が大切にしていた天君が煙を上げているのを横目に見ながら、近付く家康に私は一歩後ずさった。 裏切り者、家康。 父様を殺した。母様は……それを知らず、病に倒れた。 関ヶ原の勝者、家康。 崩れ落ちる三成。その最期に、彼は父様と私を呼んだ。 茶臼山の覇者、家康。 壮絶だと、聞いた。たった昨日の事なのに。幸村は今、こうなってしまった事を知らない。 「お、まえがっ、その名を呼ぶ資格などっ…無いんだ!」 「……そうか。」 カチン、拳の合う音と、彼特有の眉が下がった困り笑顔。 秀吉の息子、秀頼は天下人……私に、この位置を動くことは許されない。 天下を狙う家康に取って私は『邪魔物』だなんて。 「信じてたの…にっ……!」 「本当に……すまない。」 非力な私の刀が、弾き飛ばされた。 苦しまないようにと狙ったのか、強い一撃が腹に刺さる。 内臓が刔られるような最悪な感覚がした。 大切なひとにだけ、その名を。 大切なひとにだけ…… 大切な……? 大坂の空は 暗黒。 ひび割れた生暖かい涙雨。 湿り気の多い空気は私の最期の声すら亡き者にした。 [*前へ][次へ#] |