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Dreeeeeam!
マネキンガール(幸村)










くるくる指先に纏う黒髪を弄りながら、行きつけの美容院の扉を潜る。
予約した時間には5分くらい早いけど……まぁいいだろう。
小さいお店だけど腕は確かだし、何よりこの隠れ家的な雰囲気が好き。

−−っていうか、


「よくぞ参られた!……おお!なまえ殿!お待ちしておりました!」

「ふふっ、今日はカラーお願いします。」


この、時代錯誤な感じの店員君に片思い中、なんだよね……。


男の人にしては珍しい襟足が長い髪。
元から茶色なのか傷みのない艶やかさは、女のあたしから見ても羨ましい。

カウンター横にある鏡の前に座ったら、後ろに回った彼は遠慮なく髪に手を触れた。


「うむ、とても綺麗な髪だ……カラーで傷めるには勿体ない…」
「えー?幸村さんには敵わないし?」


それにね?
今日のカラーは幸村さんと同じ色にしたいの。

そう言いながら鏡越しに微笑んだ。
頭の上から驚くように息を呑む音がして、またさらに頬の筋肉が緩んでしまう。


「そ、それではこちらに…ッ」
「はぁーい。」


相談するはずの時間は慌てた所為で無くなった。
こういう初な所が彼の魅力。決して利用した訳じゃない。

髪を弄る為の席に座ったら、差し出される合羽のようなもの。
示す通りに袖を通すこの仕草が、まるで執事とお嬢様のようだと思った。

(……ちょっと痛い子かも)


「かなり髪が傷むのだが……それでも構わないと申されるか?」

「うん。」


やっちゃって!
元気よく言った後、渋々ながらも承知した、と返ってくる。

ペタペタと塗られる薬。鼻をつく臭い。
染みたら知らせるように言う彼の顔は心配そのもの。


「我慢してはなりませぬ。炎症は顔までいってしまう故……そんなことがあったら某は……うぅ……」
「はいはいっ、大丈夫ですって!」
「それでもブリーチ剤は心配で御座る!」


本来なら放っておかれる待機の間。
ずっと後ろに立ってくれる幸村さんが可愛くて、ついつい何が無くても笑ってしまう。
忙しなく腰元の鋏を弄ったり、自分の前髪を触ったり。
まるで落ち着かない小学生のよう!


「時間に相成った!流しますぞッ!!」

「あ、うん、ちょっと待っ」
(…なるほど、早く流したかった訳か)


可愛いなぁ、なんて。
言わないけど。

シャンプー台に仰向けになったら、目元にガーゼ。
シルエットだけが見えるその視界には、幸村さんの左腕というなんだか不思議な状態は、形容するなら抱きしめられる一歩手前。
意外なその腕の逞しさに目がいった。


「お湯は熱くないか?」
「丁度いいです。」
「気持ち悪い所は?」
「んー……耳とうなじらへん?」


耳とうなじっ?!
動揺で上擦った小さい声がしたけれど、そろり、洗い流す為に指先が触れた。

美容師の癖に、お客さんの耳元と首元に触れない彼。
(理由を聞いたら、破廉恥!だって。)
(訳分からん人だなぁ)

ガーゼを外してくれれば頭を優しくタオルで包み、膝掛けを取ってくれる。
動きはさながら執事再来。ほんと、此処は美容院なのだろうか?


席に戻ればドライヤー。
温風の中髪の中を滑る幸村さんの指先が心地好い。
鏡の中の自分の髪は、望んだ通りの薄茶色。
ドライヤーを掛ける主と同じになれたのが満足で、ばれないように口元を緩める。



ふと、風の音で聞こえない、この中なら何を言っても大丈夫な気がして。


「………大好き。側にいて、誰より。」


呟いて、少し後悔した。
(馬鹿みたい)


髪が乾けばおしまい。
幸村さんがお疲れ様でした、と言えば、店内のスタッフみんなが復唱して私を追い出してしまう。
レジに立って、コートを着せてもらって。

あとはいつものように、店の外までお見送りされたら帰るだけ。

そう思って財布を仕舞った瞬間、幸村さんに呼ばれて顔を上げた。


「なまえ殿、カットモデルになる気はござらんか?」
「カットモデル?」
「左様。某も美容師故、色々と修行を積まねばならぬ身……」


マネキン相手だけではいけないのだと、そう熱心に彼は語りながら入り口のドアを開け、私を通したあと後ろ手でそれを閉める。

一瞬、静かになったから振り向いて
……また後悔した。





「なまえ殿の側にいる時間が増えると……思うのだが……ッ。」
















マネキンガール




−−−はっ……はいっ、受けます…!
(まさか、聞こえてた?!?)


−−−へ、変な事を言ったのか…!?
(なまえ殿が真っ赤に!)





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あきゅろす。
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