Dreeeeeam!
深愛のあなた(元就)
涼しい顔だと言われるが、何もやりたくてこの顔をする訳じゃない。
しどろもどろになった伝令を視線で従わせ、駒の動きを一気に長曾我部へと向かわせた。
……だが、気になる事が一つ。
「……なんだその眼は。」
「んーん?いつもながら冷たくて最悪だなーと思っただけ。」
「……………。」
「ほーら、その涼しい顔が嫌い。」
頬杖をついて、軍一我に馴れ馴れしい女。それがなまえ。
そういう態度をする度に飛ぶ我の手は、いつも此奴には届かない。
今も、頭を殴る為に振り回した輪刀が虚しく空を斬った。
「今は戦中よ、少しは緊張感を持て!」
「そうそう、毛利様はそうやって怒った顔とかすればいいのよ。」
「このたわけが!!」
そうだった、ごめんねー?
なんて軽口を叩いた奴が、そのまま後ろに飛んで姿を消す。
弓兵だ、逃げ足は速い。
あちこちで上がる火柱。幾つかの鏡は落とされ、最早使い物にならないらしい。
最後の最後、こうやって計画が乱れるとは予想だにしなかった……これは本当。
苛つきで表情を思い切り歪め、近付いてきた臣下を一人張り倒すことで、少しは解消できたものか。
そうしてもう一撃食らわせる為に腕を振り上げた瞬間、轟音で目線を奪われた。
「長曾我部……我が頭上の大鏡を奪するか……!」
最も近い位置の鏡が落ちた。
視界の端に映る長曾我部が、まさかここまで来ただなんて。
だから、もっと予想しなかった事が起きた事に驚愕を隠せなくて、硬直。
「毛利様に近寄るな、下衆が!!」
背後から飛び出したなまえの連続射撃。
降り注ぐ矢の雨は総て、錨で薙ぎ払われていた。
漸く機能した目だけが確認したその錨の動き………まずい。
「っ、引け!!一触だ!!!」
「もう遅いッ!!」
長く伸びた刃先、大きく円を描いた軌道。
我の後ろを通過して切り裂かれるのは……
奴の錨に釣り攫われたのは……?
「あーあ……最後、だったなァ、毛利よぉ。」
「き、っさま……!!」
長曾我部の手元に戻った錨には、無残に貫かれた、なまえ。
それだけが我の目に映って、何も考えられなくなっていく。
「……あんたが死んでも何も残らない。誰も覚えてはくれない……なまえなら、覚えていてくれたかもしれねぇがな?」
残念だが、コイツは死んだ。
てめぇは、永遠の孤独に苦しみやがれ…!
……孤独?
そんなもの、初めからそうだった。
それを破ったのはなまえだったのか?
今更、気付いた……だと?
この、我が?
投げ捨てられ、板張りの床に叩き付けられたなまえの体。
彼女をこちらに寄せようと思わず動いた体を制して、ふつふつと溢れる純粋な怒りだけを頭に巡らせる。
「我の人生に……間違いなどないわ!!」
なまえの事を覚え、生き残るのは我。
貴様では、ない。
深愛のあなた
−−−深く、愛す。
(悔やむべきは、もっと早く、そうしてやれなかった事………か)
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