Dreeeeeam!
大きな虫(現パロ三成)
晩夏。
もうそろそろ夏が終わって涼しくなりはじめ、秋のしっとりとした穏やかさが忍んでくる頃。
………だというのに、奴はしぶとく生きていたようだ。
「あっ、痒い……!」
はっと気が付いた時、違和感を感じた場所に視線を向けた。
左腕、手首のすぐ下あたりの内側が酷く腫れ上がり、赤みと熱を持っている。
晩夏。
夏も終わりだというのに、奴はまだ全面戦争を持ち掛けてくる。
「っ……!斬滅する……っ!!」
「それは私の口癖だが………。」
のんびり縁側に座りお茶を啜っていた私達だったが、私は思い切り急に立ち上がり、一言叫んで部屋の中の箪笥にかじりついた。
隣に座っていたのははとこの三成。
何故はとこがいるか。
それは盆に旧家に集まる慣わしで、親族が一同に介するビックイベント真っ最中だから。
はとこ同士の……私達二人。
案外、親族関係だけかと言えばそうでもない。
お互いが親類に属していると知ったのは最近、つい一年前。
それまでは会社の同僚……さらにはそれ以上の関係になりかけていた間柄だった。
この家で鉢合わせた時、双方言葉を失ったのは今では良い笑い話になっている。
「ん、蚊取りあった!」
「寄越せ。付けてやる。」
「よろしくー……あっ、あれ?ないないない……。」
ごそごそと引き出しを漁りながら見付けた蚊取り線香を三成に投げてやったが、自分が欲しい物が一向に見つからない。
その間にも左手に意識がいってしまう。
意識があれば、痒い。痒いから、意識が向く。
明らかな悪循環で、苛々もこの上ない。
「〜っっ!もぉいい!我慢だ我慢っっ!」
「………。」
たたっと駆け寄って、線香の煙を撒いていた三成の横に……さっきよりもっと近くに座った。
途端に眉間にシワを寄せ、彼は緩慢な動きで蚊取り線香の台に線香を置いた。
「暑ければ蚊が寄るんだぞ……」
「蚊取りがあるから大丈夫だもん!」
にっ、と笑いかけたのに、三成は沼の底のように深い溜め息をついた。
それにむっとしたので言い返そうと口を開いたけれど、それより先に再び左手が意識を奪う。
「んぁあぅっっ……!」
「な、なまえっ?!」
「やーっ、もう痒いっ!!」
『なんだ、痒い……か。』
奇声を発したのが悪いのか、びくりと三成が肩を揺らす。
だけどそれをからかう余裕すら私にはなかった。
口をつくのは、痒い、それだけ。
「もおぉぉ痒い痒いかゆいカユイかーゆーいぃぃいい!!!!」
「五月蝿い!少し黙れ!!」
「無理!なんか叫んでないと血が出るまで掻きそうだから!!」
わきわきと、患部を掻かないようにさっきから必死なのだ。なぜ分からないかな、堅物三成め!
蚊は掻いたら掻いただけ治りが遅いことは重々経験済だ。
奴がなんと言おうとも絶対に掻かないよう気を付けよう。
「あーかゆいっ。かゆい痒い痒いっ」
「………。」
「いー……あ゙っ、あー……かゆい……!」
「………っ!あぁぁああ喧しい!!」
お、と座ったまま。
今度は急に立ち上がった三成を見上げた。
晩夏とはいえまだ気温は高い。
その所為か、元々血色の良くないはずの三成の頬がうっすらと桃色に染まっていた。
そんな三成はずかずかと私の左側に場所を変え、腰を降ろしたと思ったら、私の左手をぐいと引っ張って自分の前に持って行ってしまう。
私はといえば、ちょっとバランスを崩して、胡座をかいた三成の右太股に身を預けてしまった。
「毒虫の類なら、こうやって毒を吸い出せばいいだろうが……!」
「ちょ、み、三成……!」
引っ張られ、三成の前にさらけ出された虫刺されに、奴は迷わず唇を当てた。
直後、吸い付かれる感覚に一気に顔に熱が集中した。
慌てて腕を引こうとしても、がっちりホールドされて抜けそうにない。
堪えながら、薄く目を開いて見た彼の様子は、まるで…………
大きな虫
───ひゃあぁ、恥ずかしい……!!
───思ったより……柔らかい……。蚊などの分際で………斬滅する。
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