Dreeeeeam!
食い意地(ハニダリ×小太郎)
購買の激戦に打ち勝った戦利品を自卓上に置いてトイレに行った隙、
帰ってみれば見慣れた奴が俺の椅子に座っていて、何やら咀嚼していた。
ん………咀嚼?
「やっ………やられたあぁぁあっ!!」
「……(ぷぷ)」
愕然、失望、喪失。
三拍子そろった衝撃を受け立ち尽くす俺を見て、椅子に座った小太郎は軽く口に手を当てながら笑った。
僅かに覗くその口元は楽しそうに歪んでいて、こいつの性悪さが滲んでいやがる。
「小太郎ぉ……今度購買で奢り返してもらうからなァ……!」
「っっ!wなんで……っ!w」
なんで、じゃない!
笑いを堪えたように体をくの字に曲げるのも止めろ!
奪われた戦利品は、既に眼前の小太郎の腹に収まったらしい。
「数量限定、いつきちゃん特製ほわほわアイスティラミスを………!!」
親衛隊が押し寄せる波の上を走って通ってまで手に入れたのに、これじゃあ苦労がパーだ。
ご馳走様、そう言って俺の席から立ち上がった小太郎はまだニヤケ顔。
元々直上型の俺がキレるには十分だった。
「てンめぇ、風魔あぁぁああ!!!」
キレてる中に片倉先生の真似を入れたのは、ちょっとでも凄みを増すため。
しかし、背後から高く振り上げた足は振り向き様に躱された上、ぱしっ、と右手を掴まれてしまった。
さらに空いた手が俺の腰を抱き寄せてきて、掴まれていない左手も俺の体と小太郎の体に挟まれてしまう。
「……そんなにティラミス食べたかったの?」
「ただのティラミスじゃねーんだよ!いつきちゃんの……いつきちゃんの手作りだったんだぜ……?!」
俺より身長が高い所為で、抱え込むように上から小さく声が降ってくる。
どうやら、コイツはあのティラミスの希少性を全く理解していないらしい。そんな奴の胃袋に吸収されたいつきちゃんのティラミスが………可哀相だ。
「せめて一口食いたかった……」
流石に凹んで、しゅん、となると、頭上の小太郎がんー、と悩むような声を発しているのに気付いた。
俺の反撃を恐れてか全く緩まない拘束に、もぞりと身じろぐスペースが生まれている。
今なら逃げられる、か?
そう思ったら、真顔になった小太郎が、ぽそっと呟いた。
「………間接でよければ……?」
「…………は?」
「だから、間接で味わう?」
ニヤケてないからと真面目に聞いた俺が馬鹿だった。
ふっ、と甘い息を俺の鼻に吹き掛けて笑う小太郎の目論みが分からない程馬鹿じゃない。
つーか、ここ教室だぞ。
んなことしてたまるか、しねーよ!!
「くっそ、離せ……っ変態バカ力……!」
「何で?ティラミス食べたかったって言ったのはなまえでしょ?」
「普通にティラミス食いたいんだけど?!」
左手を無理矢理取り出して、目の前に迫った小太郎の額を押し返す。
確かに至近距離で交換される奴の吐息は甘い。ココアとコーヒーの香りが混ざった……もうそれだけでも美味しそう………
……じゃない!何考えてたんだ俺!
「何で男とキスしなきゃいけねーんだよ!」
叫んでから、はっとして青ざめた。
そして器用にも直後に真っ赤になる。
………教室だった事を忘れてたよ、俺。
俺の叫びは予想以上に響いたらしく、教室がしんと静まって、視線が俺らに刺さるのが分かる。
く、悔しいわ恥ずかしいわで顔に熱が集まり、さらに気に食わないのはそれを小太郎にガン見されている事。
クラスの女の子達に、こんなカッコ悪い姿見られただなんて………
「う………くっそぉおお!!!」
力任せに小太郎の拘束を引っぺがすと、恥ずかしさに思い切り部屋から飛び出した。
食い意地
───いつきちゃあぁぁあんっっ!(泣)
───なまえちゃん?!どーしただ!
───………からかい甲斐があるなぁ……
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