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Dreeeeeam!
逃げてしまおう(学バサ佐助+)



酷い小太郎、暴力注意。













誰もいない学校の会議室に、




バキッ、


と鈍い音がしたな、と思ったら、
脳の中に白い雷と衝撃がキた。


この感覚には慣れきっているのだが、いかんせん体の反射は追い付かず、惨めに床に伏す。




目の前にいる風魔がこうやって俺を殴るのも、唯単に昔からの癖みたいなものだ。


……イライラしたときの、サンドバッグかよ。


なんてもう何年も思っちゃいるが、言った時点で俺の死は確定だろう。

だから黙って殴られる。



「いっ………た……」

「………。」

「ぐ、がっ………っ!」






……倒れてる人間の顔面蹴るなんざ、どうかしてるよな。


綺麗に蹴飛ばされた俺は、半分意識を飛ばしかけながら奴を見た。




「………は、……の。…ちか……くな、き……ろ。」





滅多に聞く事のないあいつの声が、途切れ途切れに耳に届く。

言ってる意味はさっぱり聞き取れないが、どうやらそれが今回サンドバッグにされた理由らしい。



反応の無い俺を放置したいのか、それとも単に満足しただけなのか、そのまま風魔は背を向けて部屋を出た。




『鼻の骨……折れてなきゃいいケド……』




鼻血が出ているのは確認出来る程床に垂れているから、まず心配はそこ。


今すぐに立ち上がる事は出来ないから、ぼーっと床に全体重を預けていると、会議室の扉が凄い勢いで開いた。




「ひっ…?!さ、佐助く、っ……!!」




血相を変えたなまえちゃんは、一瞬この状況に小さな悲鳴を上げると真っ青になって駆け寄って来る。






…彼女に助けられるのは何回目だろうか。



気付けばいつも、最初に彼女が俺を見付けてくれた。

上手い具合に風魔がいなくなってから手当てをしたり、時折、今日みたいに撒き散らした血を隠蔽してくれる。


心配そうな表情に、いつも泣きそうな瞳。

恋するのにそうそう時間はかからなかった。






「ひ……どい……。大丈夫?し、喋れる……?」


「……ぅ、だ、大丈夫……じゃ、ないカモ……」




彼女の私物の救急箱は、初めて俺を助けてくれた時から持ち続けている。
きっともっとずっと前から持っているのかもしれないけど。


意識が薄い人間、ましてや自分より大きな男を支えて上体を起こすのは酷な事だろうに。



鼻は折れてはなさそう、と、ほっと安心したなまえちゃんに、俺は力無く笑うしかなかった。


だけどなまえちゃんは俺の笑顔を見て俯いて、震えてた。




「……佐助くん、なんでこんなに怪我するのに、風魔くんと一緒にいるの……!?」





風魔がやったんだとは知っていると思っていたけど、まさかこんなふうに言われるだなんて。

あの震えは、どうやら彼女なりに怒っているようだった。




「こ、こんなの……理不尽すぎるよ……っ!」

「いーんだよ?なまえちゃんが、気にする事じゃ、ないから……」





ぐ、っと床に座ったまま、彼女はスカートの裾を握り込んでいた。
俯いて、堪えているんだろうな。


でも、何を?




「もっ……もぉ、佐助くんの怪我するところなんて、見たくないのぉ……っ」

「あ、わっ……な、なんでなまえちゃんが泣くの?!」





堪えていたのは涙。

顔を上げた途端に、いつもより少し大きな声で泣きながらそう言われたので、かなり慌てる。


後で真っ赤に腫れるんじゃないかと思う程に擦るので、流石に腕を掴んで止めた。


ぼろぼろに泣いてしゃくりながら、彼女は途切れ途切れに口を開く。





「ふ、ぅ……ふ、まくんがね、この間っ、私に、こ、……こ、くはくっ、して、くれたの……っ」

「……え?」






涙に混ざったその言葉は、風魔に殴られた時なんかより数倍重く、俺の頭にヒットした。


なんだって?

風魔が、なまえちゃんに、
…………告白?



一気に喉が渇いて、頭から血の気が引いた。(頭から血が引けば、確かに鼻血は止まるもんだ。)

けれど脳は全く追い付かず、ぐるぐると回るだけ。





「よ……かった、ね……?」

「な、なんで………!」





訳が分からなすぎて、取り敢えず引き攣った笑顔で心にもない祝福を述べれば、なまえちゃんは大きく瞳を見開いた。

そこから溢れるのは大粒の涙。





「私、は……私が……!……こ、して、佐助くんのこと……好きだか、ら……ずっと、ずっと……っっ!」


「……う、そ……」


「ど、して……?!嘘なんて……い、言わないよ……ぉっ」






なまえちゃんの口から紡がれたのはとんでもない事で、きっと、この分じゃあ風魔の告白も失敗した事になる。


だから、今日は手酷く殴られた……?





いや、もしなまえちゃんが俺の事を風魔に告げていたら、恐らく今俺はこの世に存在していないんだろう。



だから、悪いことは言わないから、風魔の告白を受け入れろ、だなんて……

もう思っても言えない。
思った事を言わない事にも慣れてしまった。




心のなかの葛藤も、相談も、会議も、何もかも中断させて、泣きじゃくる彼女の頭を撫でる。

それから、ゆっくり微笑んで、





「ね、ぇ……なまえちゃん……



















逃げてしまおう




−−もう、奴の暴力も、この想いを堪えるのも、俺には限界なんだ





 

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あきゅろす。
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