我が家とさよなら
『…悪いですが、一緒には行けません。見ず知らずの方にお世話になるなんて申し訳ないですし、私は一人でも大丈夫なんで』
ごめんなさい、と頭を下げてチラリと沢田さんを盗み見れば、彼は変わらずにニコニコ笑っていた。
「そっかー残念だな…と言いたいとこだけど、俺、有言実行タイプなんだ」
『は…?』
私は沢田さんが何を言っているのか理解できなかった。だから、次に沢田さんが取る行動なんて予想できるわけがない。
「あんまり待たせるとうるさいからさ」
そう沢田さんが呟いた瞬間、景色が反転した。
『うえええ!?』
どうやら沢田さんに担がれているらしい。我が家の玄関が遠ざかる。
てゆーか!拐われる!
『ちょ、誰かぁぁぁ!!拐われっもがっ』
「ちょーっと黙ってようね」
『んむー!!(何すんですかー!!)』
助けを呼ぼうと声を上げたらハンカチで口を塞がれてしまった。
抵抗してみたけれど、沢田さんは全く動じない。担がれながらサングラスの人が作った道を通り、完全に家の敷地外に出てしまった。
背後から車のドアを開ける音が聞こえた時点で、私は諦めた。
あぁ…さよなら愛しの我が家…
てかお母さん、なんて人に私のことお願いしてくれたんだ。一歩間違えば犯罪だよ。いや、強制連行してる時点ですでに犯罪だよ!
担がれたまま車に乗り込み、ドアが閉められると、私の体は座席に降ろされた。
私はこの時を待っていましたと言わんばかりに、素早く立ち上がると、無駄に広い車内をドアまで全力でダッシュした。
残念だったな沢田さん!私はお家に帰りますさようなら!
…しかし、世の中そう上手くいかないらしい。
「逃がさないよ?」
『…あっははー』
いつの間に移動したのか、ドアの前にはすでに沢田さんがいた。何者だよこの人。
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